乙女の鉄槌
「お嬢~昨日はホントに助かったよ~。祭初日の催し物って毎年運営の若手が担当するんだけど、あんな故障は初めてでさー。あのまま幻灯機ショーが中止になってたりしたら、俺ら上役達からかなりキツイお小言食らう羽目になってたとこだよ。ありがとうなー」
ニコニコと人好きのする笑顔を振り撒いて話すニアさんとは対照的に、後ろのオッサンは何故か苦虫を噛み潰したような顔。
昨夜は会場が薄暗かったから顔まではよく覚えてないけど、多分私を法螺吹き小娘扱いしてくれたあの男だ。
「昨夜のうちにちゃんとお礼が言えなくてごめんよ。次に会ったら絶対お詫びしなくちゃと思ってたんだけど、今日また運良くお嬢を見掛けたからさー、取り敢えずベンジー連れて謝りに来たんだ」
「ベンジー?」
「あー・・そういや名乗ってもいなかったんだっけ」
話の流れ的に、ニアさんの後ろにいるしかめっ面のオッサンの名前なんだろうけど、名前ぐらい自分で名乗りなさいよねー。
「・・・それで?」
「━━━━━━・・・、、、」
相手の言葉を促すつもりで正面から目を合わせて数拍待ったけど、オッサンは名乗るどころか視線を泳がせて顔を背けやがった。
はああああああーーーーー?
「何やってんだよベンジー!昨日の態度だけでも大概なのに、それはないだろ!?」
「・・・・・いや、・・・その・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・悪かった」
明後日の方角見ながらモゴモゴ謝られてもね・・・!
「ベンジー、それじゃ謝罪になってない」
「・・・ウルセェ。俺は一応謝ったぞ!」
「おい、ベンジー!」
━━━何この人。かなりいい年齢した大人なのに、きちんとした謝罪もできないの。
年下のニアさんの方がよっぽど人間できてるじゃない。
「謝罪はもういらないわ」
「お嬢・・・」
「ちっとも悪いと思って無さそうな人に、口先だけ謝られてもね。
謝りに来て相手の顔も見ないで、そっぽ向いたまま『悪かった』だなんて。三十過ぎた大人にもなって『ごめんなさい』くらいまともに言えないの」
「あの、お嬢━━━━?」
「な、なんっ・・・」
こんな小娘に説教めいた反論をされると思ってなかったのか、オッサンは顔を真っ赤にして口をパクパク開け閉めし始めた。まるで池の鯉だ。
「年長者が年下の連れにこんだけ気を遣わせて、みっともないと思わないわけ?もしかして大の大人がこんな子供に頭を下げるのは気に食わない?━━━でもお生憎様、私これでも一応成人してるの。大人同士なのよ」
こっちの世界基準でいくならだけどね!
「えええ!?お嬢、いったい何歳なの!!マジで成人してるの!?」
「ニアさんも十分失礼だよ!」
「あわわわ・・・!」
「━━━それはともかく、昨夜の件は補充した魔力分の手当てを保証して貰えればそれでいいから」
「それは勿論、相場を支払うよ」
「じゃあこの話はもうこれでおしまいね」
反りの合わない相手と長話をしても全然楽しくないし。
「あ、あぁ、うん・・・」
「そっちのおじさんも、もういいから」
「━━━・・・、、、」
これ以上のやり取りはお互い不愉快な気分になるだけ━━━━そう思って早々に会話を打ち切る方向に話を進める。
だって、せっかくの楽しい気分が既に台無しだ。
ベンジーとかいうその人は何か言いたげな顔をしてたけど、結局何も言わず不貞腐れたような表情のまま背中を向けてその場を去って行った。
「元はと言えばあいつが悪いんだけどさー・・。お嬢、容赦無いなあ」
「は?何が?当たり前の事しか言ってないでしょ?」
男の姿が人混みに紛れて見えなくなると、ニアさんはハハハと乾いた笑い声を立てた。
「あいつ、俺の一つ年下なんだよ」
「━━━はああああああ!?嘘でしょ!?ニアさんこそいったい何歳なの!!」
「俺は今年で二十三だよ」
「・・・まあ、見た目通りね」
つまり、単にあの男が極端な老け顔って事かー。
「あーあ、可哀想にベンジー。あの見た目結構気にしてんのにー。しかも超が付く奥手だから、女の子の前に出ると緊張していつもろくな会話にならないんだよ」
「昨夜あれだけ私に喧嘩売ってきたじゃない!」
「あの時は暗くてお嬢の顔がよく見えなかったんだと思うよ。しかもほら、お嬢小さいから・・・」
「・・・てっきり相手が子供だと思ってて、好き勝手言い放題だってわけ?」
「うん、まあ、平たく言えばそういう事だと思う」
「・・・乙女舐めてんのか」
「うわぁ、お嬢口が悪ぅいー」
だってそうとしか言い様がないんだけど!
たとえどれだけ幼く見えたとしても、乙女は乙女として扱うべき!
「でもさー今日のお嬢はいつもより大人っぽくて、年頃の娘さんに見えるから、あいつが緊張したのもわかるよ」
「『今日のお嬢は』ってナニ、『今日の』って。私はいつも年頃の娘よ!」
「うわわ・・・その、ふ、服装とかで女の子は印象がガラリと変わるからね!」
まあ、そこは狙ってやってるけど?
昨日はゴスロリでも清楚系の甘ロリだったけど、今日は大人可愛い小悪魔風のコーディネートで、ちょびっとだけ無い色気を演出してみたよ。くっそう!
私の自宅のクローゼットには、向こうの世界でついぞ陽の目を浴びさせる事ができなかったコスプレ衣装がわんさか眠ってて、この際だからこっちの世界のお祭りでなるべく多くの服を街中デビューさせようと目論んでいたりする。
だって出し惜しみなんかしてたら、乙女の旬の時期はあっという間に過ぎちゃうからね。
こういう服が似合う年代はごく限られてるし。
「・・・えっと、それで俺が何が言いたいかというとさ、お嬢かなり目立ってるから一人だとそのうちろくでもない男にナンパされそうで心配かなー・・・なんて」
「目立つ?━━━あぁ、服装の事ね。周りの人達の装いとはちょっと毛色が違ってるし、浮いて見えるのはしょうがないわー」
「えええー・・・俺それだけじゃないと思うんだけど」
「なによー。ダイナマイトボディーの女子の群れにチンチクリンが一人混じってて、悪目立ちしてるとでも?」
そこで私が少々やさぐれた気分になりかけた時、何やら辺りに騒がしい空気が発生して私とニアさんが注意をそちらに向けると、両手に美女をぶら下げたシグがこちらに歩いて来るところだった。
「よう、待たせたな」




