乙女と食い倒れ
昨日はシグと二人でソルフェージュの建国祭をそれなりに満喫したものの、一日の締めくくりで微妙に面白くない気分になってしまった。
━━━ので、今日は仕切り直しだ。
せっかくのお祭りだし、ちゃんと楽しまないと損だからね。
昨日会場で小耳に挟んだところによると、祭り二日目の今日は『食』にちなんだ催し物が主軸になるらしく、食い意地の張ってるシグはもう既にかなり乗り気な様子。
例によって昼食兼昼食も摂らずに慌ただしく転移の魔法陣を潜り抜けた後、小荷物でも担ぐような気軽さで私を抱え上げると、颯爽と表の賑わいに足を踏み入れた。
「・・・だから、なんで私を持ち運ぶのよ」
「眺めは良いだろー?」
「そりゃまあね・・・」
百九十センチ以上あるシグに抱え上げられると、確かに眺めは抜群よ。
だけどこっちの承諾も取らずに好き勝手に持ち運ばれると、自分が米俵かなんかになった気分になんだけど!
━━━と、文句を言ったところでこの男が人の苦情をまともに受け付けるわけないし。
『おー、悪ィ悪ィ』とか言いながらも、絶対これっぽっちも悪いと思ってなさそうな表情で、いつも人を小荷物扱いしてくれてる。
けど私も最近感覚が麻痺してきてて、シグに持ち運ばれるのが普通になっちゃってるあたり、慣れって怖いわー。
「ウィネスさん昨夜は結局家に帰って来なかったね・・・」
シグに抱えられてお祭り広場を散策しながら、不意にふとそんな事が気になった。
相手は子供じゃないんだから心配いらないとは思うけど。
「グウィンの奴ならどうせそこいらで好き放題やってんだろうよ。気にするだけ無駄無駄ー」
案の定グウィネスさんとの付き合いが長いシグは、私の心配を鼻で笑い飛ばした。
・・・私もそんな気はしてるけどね!
「現在んとこ弟子の手前かなり行儀良く暮らしちゃいるがな。ありゃトンでもねえババァだぞ?間違っても身の心配をされる側になんぞならねえよ」
「ダヨネー」
元軍人と拳で語り合える時点で、“か弱いお年寄り”のカテゴリーからは完全に外れてるし。
でも、グウィネスさんてば大概見た目詐欺だよねぇ。黙って佇んでいればお堅い女教師みたいな印象なのに。
「さぁて、何処から攻めるとすっかなー」
広場にズラリと並んだ屋台を眺めて、ウキウキと楽しそうな声を上げるシグの頭の中は、既に食べ物の事で一杯みたいだ。
「・・・見た目詐欺はこっちが本家か」
今日もきっちりと正装を着こなした白皙の貴公子が、下町の悪童みたいな表情で口の端をニヤリと笑みの形に歪める。
お上品に銀のカトラリーでちまちま食事を摂るのが似合いそうな美貌の主は、実際はB級グルメの方がお好みらしい。
「大将ー、臓物串と腸詰め二人前!あとブリートな、ソースを辛めで。そんでエールの大ジョッキ!」
「私はリモン水」
「あいよ、まいどー」
完全に呑兵衛オヤジの注文だ━━━━。
「おぉー、結構イケるわコレ。エールと相性バッチリだぜ!」
「そう?良かったわねぇ、お爺ちゃん」
それから何軒か屋台をハシゴして、どっさり買い込んだ食べ物を近くの飲食コーナーに持ち込み、只今実食の真っ最中。
グウィネスさんも細身ながらよく食べる人だけど、シグはそれに輪をかけた大食漢で、しかもどれだけ食べても体型が変わらないという、乙女の敵のような謎生物。
取り敢えずいっぺん禿げればいいと思う。
「この辺の地域は香辛料をきかせた料理が多いんだね。美味しいけど独特な風味のやつもあるから、好みが別れる感じかなー」
テーブルの上に広げた料理を片っ端から一口ずつ試食して、最初に出た感想がまずこれ。
ソルフェージュの料理は全般的にエスニック料理に近い感じがする。
これはこれで悪くないけど、毎日食べるなら私はもう少しシンプルな味付けの方が好みかも。
「何か苦手なもんでもあったか?」
「苦手というか、普段食べ慣れてない味の物が多くて・・・」
「あぁー、なるほどな。じゃ、次からは一人前ずつ買って二人で分けるか。お前が駄目なやつは俺が引き受けりゃいいんだし。その方が色々味も試せて一石二鳥だろ?」
「うん、それでお願い」
誰かさん達と違って私の胃袋はごく標準サイズだから、その提案は物凄くありがたい。
だって今の時点で既に腹八分目に近いんだもん。
━━━━で。
なんだかんだ言いながらB級グルメツアーをそこそこ満喫していたら、シグが野暮用でテーブルを離れたタイミングで、またもやニアさんと遭遇してしまった。
・・・しかもなんか後ろに可愛げの無いオッサンいるし。




