乙女が三度出会うもの
人間誰でもその身の内に魔力を抱えているにも拘わらず、それを魔法として発現させられるかどうかは、完全に本人の素質次第なんだと以前にグウィネスさんが言っていた。
つまり努力とか才能以前の問題で、例えその身に宿している魔力がどれだけ多くても、適性がなければどうにもならないのだと。
人間の体内には目に見えない回路のようなものがあり、そこに上手く魔力を巡らせる事によって初めて魔力を魔法に変換できる━━━そういう仕組みらしい。
そして身の内に蓄える事が可能な魔力量は、持って生まれた“器”の大きさによって決定付けられ、身体が成長しきってしまうと僅かな伸びしろさえも自然とそこで打ち止めに。
何もかも生来の資質によって左右されてしまうのが、魔法使いという職業なのだそうだ。
*
辺りが完全に闇に包まれた夜の十刻(午後八時頃)。
日時計の天辺の鐘が打ち鳴らされるのと同時に、広場の上空に一斉に光の華が咲き乱れると、空を見上げる人々の口からは相次いで感嘆の溜め息が溢れた。
赤、青、黄に紫、オレンジにピンク━━━━。
目まぐるしく色を変え、姿を変える光の華。
空中に映し出された幻影が、まるで生きているかのように動く様は正に圧巻の一言に尽きる。
「うわぁー・・綺麗・・・」
想像以上に幻想的なその光景に、私も思わず我を忘れて魅入ってしまった。
「プロジェクションマッピング顔負けの技術じゃない・・・?
庶民の生活水準レベルが近代寄りの中世辺りなのに、相変わらず魔法関係の一部分だけがハイテクとか、ワケわかんないわー」
「お嬢ー?取り敢えずあと四半時(十五分)くらい保たせてくれるかな・・・」
頭上で繰り広げられる空中ショーに目を奪われてたら、傍に居たニアさんに申し訳なさそうに声を掛けられた。
「了解~」
本来は半時(三十分)ぐらいかけてじっくりショーを展開するらしいんだけど、流石に今回それは無理。
複数の幻灯機を一度に起動さなきゃならないから、魔力の消費が半端なくて供給が追い付かない。
ニアさんは私の魔力量について、“かなり多め”ぐらいに認識してるっぽいけど、普通に考えればそれでも結構な無茶だから。
どんなに潤沢な魔力があったって、このクラスの魔道具を直で動かしたら、人一人分の魔力なんかあっという間に底が尽きちゃうって。
私は改めて魔晶石に気を集中し直して、魔晶石の中身に気を配りながら、現在進行形で魔力を注ぎ足し続けた。
そして約四半時後━━━━━━。
「・・そろそろヤバイかも」
「え、」
「起動前に充填した分は使いきったから、じきに追い付かなくなるよ」
「わかった・・・。今日はありがとうお嬢、凄く助かったよ」
「どういたしましてー。これで貸し一個だね!」
「うわ、怖っ~」
そんな会話をしてほどなく、広場の夜空を彩っていた光の華が一つまた一つと姿を消してゆき、最後の一つが消えた瞬間、名残を惜しむかのような観客の溜め息だけが辺りに残った。
「━━━えぇ?今年はこれでもう終わりなの?」
「いつもの年より短くないか?」
「なんだか物足りないわねぇ・・」
周囲の観客から口々にそんな言葉が漏れ聞こえてきてるけど、幻灯機の魔力が尽きた今となっては、もうショーを続ける術が無い。
幻灯機ショーの中止だけは免れたけど、主催者側にも観客にも納得のゆく結果ではなかったみたいだ。
私も次の機会があるなら、今度こそフルバージョンのショーを見てみたい。
「よしよし、がんばったな!」
ポンポンと頭を撫でられて視線を上に向けると、道化師のお面を斜めにズラして被ったシグが、珍しくニヤニヤじゃない笑い顔でこっちを見てる。
「もっと誉めてよし!」
「おー、偉い偉い」
「えへへー」
“シグの顔を見て和む”という物凄く珍しい事態に、内心『おぉー』と驚きつつもちょっと気分が良い。
・・・・・シグが、まともな大人に見える!!
幻灯機ショーが終わった後の広場は、あちこちで篝火を焚いていてもなお闇が深く、濃い。
これがこっちの世界の普通なんだろうけど、人工の照明に慣れきった日本人としては、心許なく感じる事この上ない。
普段は夜に外出する事なんかないし、グウィネスさんの家では便利グッズに囲まれて過ごしてるから、ここ最近あんまり暗闇を意識する事なんかなかった。
・・・光のキューブを持って来ればよかったなぁ。
そんな事を考えていたら、ふと見慣れたオレンジ色の光の球が視界の隅を横切った。
風に流されるような、頼りないその動き。
・・・・・良いこと思い付いた。
「ふっふっふ」
「おいコラ、ネージュ。なんかロクでもねえ事考えてやがるな?」
「━━━うん、まあ。ちょっとした実験をね?」




