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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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世の乙女の大半はこの病持ち

「ぐわぁあああぁっ!!目が、目が潰れるぅ~~~!!!」


前略、母上様。

━━━貴女の娘はいま現在死にそうです。


「おのれ・・・シグルーン!なんという卑劣な反撃をっ・・・!!」


「は?ナニ訳の分からん事を言ってんだ、小娘」


明け方の草っ原に倒れ伏すようにガックリと項垂れる私。

と、それを上から目線で見下ろす超絶ビボーの老紳士。

はたしてその正体は!


「聞いてない!聞いてないよシグ!そんな・・・そんな非常識な顔をしてるなんてっ!!」


「はぁ?俺がどんなツラをしてようが、俺の勝手だろうが」


その通り。


━━━だが敢えて言おう!顔の良い男は私の敵だ!

何故なら、私が血迷うから!!


「くううぅっ・・・!」




あの岩牢を謎の『ど○でも扉』で抜け出した後、シグは私を肩に担ぎ上げたまま延々歩き続け、空の端っこが白む頃にようやく私を地面に下ろした。


「大分明るくなったし、そろそろ足下が見えんだろ?」と。


夜目の利かない私は星明かりだけでは何も見えず、満足に歩く事すら出来なかったため、ひたすら俵担ぎに甘んじるしかなかったのだ。

お姫様抱っことは言わないけど、せめて背負って貰えたらもう少し楽だったのに・・・。

・・・ハイ、スミマセン。お荷物の分際で文句を言いました。



そして今までまともにシグルーンの顔を見てもいなかった私は、地面に下りて初めて正面からシグの顔を見た瞬間、腰を抜かした。


「ナニその顔━━━━・・・」


今までの私の短い人生で出会でくわした事が無い種類の、超絶美貌の持ち主がそこにいた。


それなりに鍛え上げられている身体カラダがいっそ細身に見えるぐらいの長身に、若い頃は『美人』と称するのがお似合いであったであろう中性的な顔立ち。

随所に年輪は刻まれているものの、間違っても『お年寄り』とは表現出来ぬ凛とした佇まい。

伸びた白髪を背中でひとつに括ったヘアスタイルなんかは、RPGとかでよく見かけるエルフのイメージに近い。


・・・・・でも中身は、・・・アレだ。


だがしかし、私は顔の良い男に滅法弱い。

これは最早遺伝と呼んで差し支えないかもしれない。


母が根なし草のような職業不定の年下の童顔青年に転び、子供を拵えておきながら数年後には行方を眩まされる羽目になったのも、全てはその面食いさに端を発しており、・・・恐ろしい事にその血は確実に娘の私にも受け継がれている。


それでも私は声を大にして言いたい。

男の真価は顔にあらず、・・・と!!


「━━━おい、ネージュ」


「ぎゃっ!!」


「なんつー色気の無い叫び声を上げてんだ・・・」


すみませんねぇ。色気がなくて!ケッ・・・。

そういう貴方シグルーンは初老のお祖父様のくせに色気ダダ漏らしってどーゆーことなの。


「ナニ一人でやさぐれた空気を醸し出してんだ?あぁん?」


・・・いい年齢トシした大人の男が、不良ヤンキーみたいに凄まないで欲しいんだけど。

精神年齢いくつだ、アンタ!!


「俺はこのままトンズラするが、お前さんどうする?」


「どうって・・・」


まだ何も考えてなかった。それどころじゃなかったし。

でも・・・・・どうしよう。


「『何も考えてなかった』って面だな」


「・・・!」


「んじゃ、ひとまず俺とお前さんで父娘のフリでもしながら、国境を越えてみるってのはどうだ?どういう仕組みか知らんが、例の扉を跨いだら中央から辺境まで一気に跳んだらしい。追っ手がかかるにしても当分先の話になるだろうから、さっさと他国に渡っちまえば晴れて自由の身だ」


「それは・・・ありがたい申し出だけど・・・」


どうしよう、ここは素直に応じるべき?それとも・・・。


「━━━あのなぁ、迷ってるなら俺にしとけ。右も左も分からんのだろうが。お前さん、俺の事を警戒しとるんだろうがそれは俺も同じだ。俺にとってお前さんは会ったばかりの見知らぬ相手だからな。だが少なくとも俺は子供に危害は加えん」


「・・・シグには私が何歳に見えてるの」


「十二、三てとこだろう?」


「十八歳よ!!」


「フカシこいてんじゃねーぞ、コラ!!」


むきぃ━━━━っ!腹立つ!!この不良老人ヤンキー!!

こちとら多少小柄だけども!日本女子としてはごく標準的な身長だ!

アンタがデカ過ぎんでしょおぉーーーー!!

二メートル近くある人間からみたら、私なんかそりゃチビッ子に見えるでしょーよ!!


我ながら子供っぽいと思いつつも、ぷぅと頬っぺたを膨らませてブー垂れてたら、さっと両脇に手を差し込まれて『高い高い』を強制執行される始末。


「うぇ!?」


しかも鼻と鼻がくっつきそうなぐらい顔を近付けてのガン見!!


「おー、真っ黒でデカイ目玉だなぁ。・・・のわりに鼻は低いし口もちっちぇー。牙も爪も無いところを見ると純人か。このほっそい手足じゃ狩りも満足に出来んだろう」


種族が違うんじゃ!バカ!!


「・・・・・に、しても。食いでの無さそうな身体だな。俺としちゃあもっとこう、出る箇所は出てるのが好みなんだがな・・・」


泣いてもいいだろうか。

━━━━いま。今、ドコを見て言った!!くそジジィ!!




私は取り敢えずシグの鳩尾を蹴り上げてから頭突きをかました上で、盛大にギャン泣きしてやった。


初めて見る異界の空も青かった。



















































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