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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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ゴスロリは永遠の乙女装束

━━━現在、季節は盛夏。

冬至の翌日を新年とする暦で、十三カ月ある月のうちの七番目。今が一年で最も暑い季節。


尤も、大きな大陸しまだから北の国と南の国で気候にかなり差があるという話だけど、私が暮らすシトラス山脈の麓の家はそれなりの標高にあって、真夏でも初夏並みの気温でとても過ごし易い。

イメージ的には北欧とかスイスの夏に近い感じ。

どっちも行ったことないけどね。




━━━とある日の午後。


「おい、行くぞ」


いつものように私が厨房キッチンで午後のお茶の準備をしていると、シグがひょっこり姿を現して何の前置きも無くそう言った。


「はぁ???」


手を粉まみれにしながらビスケットの生地を捏ねてた私は、シグと出掛ける約束でもしてたっけ?と慌てて記憶を探ってみたけど、それに該当する案件はこれっぽっちも思い当たらず。


「━━━ちなみに聞くけど、ドコに?」


「なんだ、忘れてんのか」


「???」


「祭りだよ、まーつーりー。グウィンの奴に聞いた話だと、ソルフェージュの建国祭はかなり盛大らしいぜぇ?なんたって商人あきんどの国だからな」


「あー、今日からだったっけ・・」


サリーに建国祭の事を聞いてから、どんなお祭りか気になってはいたんだけど、このところ〈手仕事屋〉の仕込みが忙しくてすっかり忘れてた。


━━━ていうか、前もって誘われた覚えもないのに、当たり前のようにシグと一緒に出掛ける流れになってんのはなんでかな。


「今日はもう家事はやんなくてもいいぜ。たまには羽を伸ばさねーとな?」


「いや、でもこれ、調理の途中・・・」


「んなもん、おめーの部屋に突っ込んどけ」


「あ、そっか。謎の時間停止機能が働いてるしね・・・、て、いやいや。居候が家主を放って遊び呆けてるわけにもいかないでしょ!」


「あいつには先月のうちに話を通してあるから大丈夫だってー」


「は!?なにそれ、聞いてなーい」


「言ってねえしな!」


ちょっとしたサプライズのつもりだったのか、シグがイタズラを成功させた悪童みたいな顔で、ギャハハハと笑う。

おーい・・・精神年齢ェ・・・。


「それにあの女ならとっくに出掛けたぜ。念入りに変装して行きやがったから、適当にそこら辺に紛れ込んでんじゃねーのか」


「えぇ?」


「ほっとけほっとけ、あっちはあっちで好きにやらせときゃいーんだよ。()()()()()()大人オトナなんだからよ」


それはシグも同じじゃないのかなー?

姿形こそ若返ってるけど、中身は成熟した立派な大人・・・・・・・・大人・・・?のはず・・・なんだけどなぁ。


「んじゃ、行くか!」


「━━━ちょっと待った」


『お出かけ』に『身嗜み』はつきものだよねぇ?









慌ただしく身支度を整えて転移用の魔法陣を潜った私達は、いつもの如くクーベルテュールに一息で到着すると、その足ですぐさま街中に繰り出した。


「わぁ、街が花で埋もれてる━━━!」


普段から人が多くて賑やかな街だけど、祭の当日だけあって今日はまた一段と華やかな雰囲気だ。

どの家の扉にも色鮮やかな生花のリースが飾られ、街のそこかしこにフラワーアートらしき作品ものが並べられている。

街の白壁の建物によく映えてとても綺麗。


「それにしてもスゲー人混みだな。絶対にはぐれんなよネージュ」


「う、うん」


この迷路みたいな街で迷子になったりしたら、一人でおウチに帰れる気がシマセン。


「・・・服、掴んでていい?」


「あぁ?シワになんだろ。どうせならこっちにしとけ」


ほら、と差し出されたのは大きな手。

剣を振るう男の人にしてはスラリとした形の良い指に、ちょっとだけ見惚れたのは秘密にしとこう。


「そんじゃ、そこら辺ブラブラ歩いてみっか」


「うん」


いつもならシグと並んで歩いてると、周囲から絡み付くような視線を感じるんだけど、街全体が浮き足立った空気に包まれている今は、たいして気にもならない。

派手なのも目立つのも、シグ一人じゃないからね。


通りを行き交う人達の晴れ着姿は実に様々で、正装フォーマルに近い落ち着いた感じの服装の人もいれば、仮装寄りの奇天烈な格好をしてる人もいる。

実を言えば私とシグの格好も、どちらかというと仮装寄りの部類に入るっぽい。


黒の燕尾服に白いゴスロリワンピースという私達の出で立ちは、普段なら周囲から浮きまくってるとこだけど、お祭りで周りの誰も彼もが競い合うようにして派手な服装をしてるおかげで、悪目立ちし過ぎている感じはしない。


私のゴスロリワンピースは自宅マンションのクローゼットに死蔵されてた自作品もののうちの一つだけど、異世界まできてようやく陽の目を浴びる事ができた。

こういう服って作るのは楽しいけど、なかなか外に着て出掛ける機会がなかったんだよね。


シグの衣装のコンセプトはズバリ“執事服”。

グウィネスさんちのクローゼットが日本の自宅と繋がって、愛用の道具ミシンが自由に使える事が判明した後、妄想女子の煩悩が暴走した結果出来上がった代物。


実際に本人に着せる機会があるとは思わなかったけど。いやぁー、眼福眼福。

見た目“だけ”はケチの付けようも無いぐらい完璧だし。


いつもは適当に後ろで一括りにして背中に流してるだけの髪を、丁寧に櫛ですいて後頭部の高い位置に結い上げ、燕尾服と同色の黒いリボンを結んでみた。

思った通りシグの白い髪に黒はよく映える。


私のゴスロリワンピースも黒髪が映えるように、全体的に白━━━というかクリーム色。

だから二人して並んで歩いてると、お揃いのモノトーンでまるで二人一組のセット商品みたいに見えるかも。


でもその場合、他人の目に私とシグはどんな間柄に映るんだろ。

兄妹にしては似てなさ過ぎるし、友人同士にしてはかなりちぐはぐな組み合わせ。

主従関係には全く見えないだろうし・・・。


せいぜい“身内の()()”の世話を頼まれた、“お兄さん役”の青年てとこかな?

まさか私達の年齢が、親子どころかお爺ちゃんと孫ほども離れているとは、誰も夢にも思うまい。


━━━まあ、シグは精神年齢がアレだから、見た目通りに捉えて貰ったところで、ちっとも構わないけど。


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