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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女と花のドレス

あれから私は街で買い物を大急ぎで済ませて家に戻ると、異界部屋にこもってさっそく晴れ着の製作に取り掛かった。


少々お節介だったかなと思わないでもないけど、半分は自分の趣味のためだし。

ヒラヒラした裾の長い盛装ドレスは乙女の永遠の夢さー。


全部手縫いだと五日じゃ到底仕上げられないけど、私には秘密兵器がある。

異界部屋に繋がる“扉”を閉めて作業をすれば、時間の経過を気にしなくて済む上、ミシンという便利な道具が使い放題。

・・・ただし私の集中力の方には限界があるから、適度に休憩を挟みながらだけども。





━━━で、その五日後。


いつものようにシグをお目付け役にクーベルテュールの噴水広場で営業してると、約束通りあの子がやってきた。


「あのー・・」


「いらっしゃーい、待ってたよサリー。このお店小さくて探すの大変だったでしょ?」


「え?ううん、そうでもなかった」


彼女サリーがそう言ってチラッと視線を横に向けた先には、数人の若い女の子に囲まれたシグの姿が。

・・・ああ、うん。確かにこれは目立つね。

街中で見掛ける平均的な体格の男性より、シグの身長は頭一つ分くらい飛び抜けてるし、その『飛び抜けてる』部分が半端なく派手だ。


でもこの子、この前はじめて会った時もそうだけど、たいしてシグの顔に惹かれてる様子がないんだよね。

・・・なんとなく理由は察しが付くけど。



「━━━じゃあこれ、御注文の品ね。サイズは問題ないと思うけど、包みを開けて中を確認してみて」


「ホントに五日で縫い上げたんだ・・・!凄い!」


「服の仕立てを請け負うのは初めてだったから、つい力が入っちゃって。さすがに毎回この早さで仕事をこなすのは無理ね」


秘密兵器があってもかなりのハードワークだったよ。


「・・・・・なにこれ」


「え、」


包みを開けたサリーの第一声に、思わずドキッとした。

あああああ・・・私、やっちゃったかー・・?

自分の趣味に走りすぎて、彼女の好みから外れた可能性も━━━━・・


「やだーーー!!ナニコレ!スッゴい可愛いぃ~~~~~!!」


「はぇ?」


一瞬の間をおいて叫びだしたサリーの頬は、興奮で真っ赤に染まっていた。


「素敵!凄いわ!こんなに綺麗で可愛いドレス・・━━━ホントにあたしの!?」


「そうよ。全部サリーのイメージに合わせて縫ったんだから」


「えぇ!?」


サリーが選んだシャーベットオレンジの布を見て、ふと頭に思い浮かんだのがガーベラの花だった。

可憐な一輪咲きのシルエットをそのまま服で表現できたら素敵だろうなって。


全体のシルエットをすっきりさせるために装飾はあえて控えめに。そして裾をフレアにする事で、動きが加わるとフワリと花が咲くように広がる仕様にした。

サリーの明るい茶色ブラウンの髪にオレンジのドレスはきっとよく映えるだろう。


「嬉しい、ありがとネージュ!家族に自慢するわ!それから・・・と、友達にも!」


「気に入ってもらえてよかった。それ着てお友達と一緒にお祭りを楽しんでね」


「え?う、うん」


どもりながら返事を返すサリーの表情はどことなくソワソワしてる。

ふふぅ~~ん?これはやっぱり・・・アオハルか。好きな相手がいるね?

そりゃ他の男(シグ)なんか目に入らないよねぇ。

恋する乙女かー、可愛いなぁ。


「ねえ、ホントに布代だけでいいの?普通はもっとお金を取るものでしょ?」


「今回限りの特別サービス価格よ。サリーは私が仕立てを請け負ったお客様第一号だからね。ヘッドドレスとコサージュもおまけに付けちゃう!」


「これも素敵・・!」


ドレスのデザインがシンプルだから、小物やアクセサリーがよく映えるわよー」


「~~~さっそく家で袖を通してみる!」


「今後ともご贔屓にー」


晴れ着の包みを大事そうに抱えて早足で去ってゆくサリーの後ろ姿は、あっという間に広場の人混みに紛れて見えなくなった。


「ちゃんと喜んでもらえて良かったな・・・」


やっぱり私、この仕事好きかも。

自分が作った物を直接お客さんに手渡せて、受け取った人の表情を直に確かめられるところとか。


一年くらい前までずっと進路で悩んでて、本気で服飾系の専門学校を目指そうと思ってた時期もあったけど。

才能がものを言う世界なだけに、その業界で身を立てるのは一筋縄でいかない事はわかりきってたし、第一私が望んでいる『平凡で安定した生活』からは遠ざかってしまうから、堅実な進路みちを選んだ事自体は後悔していない。

あの時はそれが一番良い選択だと思ったから。


でもいざ『手仕事屋』の看板を掲げてみると色んな物を作るのが楽しくて、服を縫う事だけに拘らなくてもいいかもなんて思い始めてる。

誰かのために料理をしたり、お菓子を焼いたり。


事実上シングルマザーとなったお母さんとの二人暮らしは、家では一人きりで過ごす時間が長くて、料理もお菓子も作り甲斐がなくて物足りなかったんだけど、今はこうやって誰かの手に渡るところまで見届ける事ができる。

━━━それが凄く幸せだ。


「いいなーお祭りかぁ・・・どんな感じなんだろ」



けどまさかこの時何気無く口からこぼれたこの呟きが、絶賛女子に囲まれ中のシグの耳に拾われていたとは思いもよらなかった。

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