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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女の初仕事

私達が店を出る一歩手前で声を掛けてきたのは、ちょうど私と同年代(に見える)ぐらいの女の子だった。


シグお目当てに声を掛けてくる女の人は珍しくないけど、いずれも自分の容色に自身ありげな肉食系美人がほとんどだったから、今回のアプローチに関しては『アレ?』と思った。

見た目が私と同じ年頃ということは、これまでの体験上相手の年齢は確実に三つ四つ年下だと思われるし、何より見た目が純朴そのものの少女だったから。



「あ、あのあのあの・・・いきなり呼び留めてごめんなさい!あたし、その、━━━━あなたの着てる服をよく見せてください!!」


「・・・私の、服?」


「か、可愛いなって思って!自分の服を縫う参考にしたくて・・・でもなかなか声が掛けられなくてグズグズしてたら、あなたが店を出そうになっちゃって・・・いきなりでごめんなさい」


・・・なんというか、初めてのパターンだった。

シグと一緒に行動してると、『私自身』に声を掛けてくる女子は滅多にいない。

お目当てのシグの情報を引き出そうとして、あれこれ探るような話題を振られる事はあっても、通常私個人が興味を持たれる事はあまりない。


「その服、あなたが自分で縫ったの?」


「うん、そう。もっと近くにどーぞ」


「いいの?ありがとう!」


なんというか、久々の女の子同士の普通の会話だー。気分がほっこりする。


「実はあたし、そんなに針仕事が得意じゃなくて・・・。家でお母さんとかに教わってるんだけどなかなか上達しないの。でもなるべく可愛い服は着たいしで困ってて・・・」


「あー、うん。わかるわかる」


デザイン豊富な既製品の中から好きな服を自由に選べる“向こう”と違って、ここでは全部自力でなんとかしなきゃならない。

各々創意工夫をするにしても、世の中の女子全員が縫い物が得意なわけもなし。

でも年頃の娘が『可愛い服が着たい』と願うのは、ごくごく当たり前のこと。


ちなみに今日の私の格好は、リゾートファッション寄りの肩を出したゆるふわワンピース。

涼しげな淡い緑のグラデーションで薄い布地を重ねた不揃いの丈の裾が、歩く度にフワフワと揺れる。

本当は膝丈にしたかったんだけど、それだと女性が素足を晒す習慣のない地域では“はしたない”と言われてしまうから、取り敢えずふくらはぎが隠れる長さにした。


「えぇと・・・ここがこうで、そっちがこうなってて・・・。む、難しそー・・」


私の服を色んな角度から眺めて真剣な表情をしたかと思ったら、次の瞬間には女の子の眉がへにょん、とハの字に垂れた。

裁縫が苦手だという彼女にとって、パッと見でデザインを盗むという芸当はちょっとばかしハードルが高かったみたいだ。


「が、頑張る。せっかくのお祭りに一昨年と同じ晴れ着なんて・・・絶対他の子にからかわれちゃうし」


おや?今、聞き捨てならない台詞が。


「お祭り、あるの?」


「そこんとこ詳しく」と聞き出したところ、一月後にソルフェージュの建国記念祭があるという話だった。

お祭りに晴れ着はつきものだけど、若い娘にとっては格別の意味合いがあるらしく、年頃の娘は競い合うようにして美しく装うのが常なんだとか。

━━━まぁ、なんとなくわかるけど。


お祭り(イベント)”イコール“集団お見合い”みたいなとこがあるからね。

出会いを求める男女が初対面の相手のドコを見て品定めするかといったら、まずは『顔』『身体カラダ』『衣装』だろう。

特に『衣装』は財力に直結するから、本気で婚活してる人間は真っ先にここを見るんじゃないかな。


━━━と、そこまでいかなくても、意気になる異性がいる女の子だったら自分の身形にはかなり気を遣うはず。

できるだけ綺麗に着飾って、ちょっとでも可愛く見せたいのが乙女心というもの。


「━━━仕立て屋さんに頼んだりとかは?」


「今の時期は割高になるから無理よ。うち大家族だから全員の晴れ着を他所に注文オーダーしたら大赤字になるもの。布地を買って家で仕立てるのがやっとよ」


「今日は自分の晴れ着用の布を買いにきたのね?」


「予算内でなるべく気に入った物を選ぼうと思って・・・」


ここまで聞いといて素通りしたら『手仕事屋』の名が廃るというもの。


「あのね━━━」




この後、私は彼女が選んだ布地を購入して、五日後に噴水広場の青空市で待ち合わせる約束をした。

お代は現物を見てから、気に入ったら原価で譲るという事にして。


『手仕事屋』としての、衣装製作第一号だね!






「・・・・・おい、帰るぞ」




シグの存在忘れてた━━━━━。

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