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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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唸れ!乙女のゴールドフィンガー

━━━ネージュの様子が妙だ。

どこがどうと言うほどじゃ無いにしても、表情は明らかに精彩を欠いているし、普段と比べて口数も少ない。

・・・何が理由かはよくわからないが、昼間に魔道具屋で客と顔を合わせた辺りから様子がいつもと違っていた気がする。


日頃から喜怒哀楽の表現が真っ直ぐで腹芸とは無縁の小娘が、まるで宮廷雀達が腹の探りあいをする時のような薄い笑みを浮かべているのを見た瞬間、何とも言えない不快な気分になったのを思い出す。


・・・似合わねぇツラしやがって。

泣くにしても笑うにしても、呆れるぐらい自分に正直なのがお前だろうが。


鼻が曲がりそうなキツイ香水の匂いを纏って、原形がわからなくなるほどの厚塗り化粧を施して、己の本心をけして他人に悟られぬように、作り物の笑みで武装する女達を長年この目で嫌と言うほど見てきた。

━━━だからせめてコイツぐらいはと、そう思う。

まあ、これは俺の勝手な願望なわけだが。



「実は今日、魔道具屋さんで故郷あっちにいた頃の知り合いそっくりな人に出会ってビックリしちゃいました」



夕食の席でグウィンを相手にネージュの口から語られた話の内容を聞いて、なるほどそうだったのかと合点がいった。

相手を探るようなあの眼差しは、実際に目の前にいた人物を上から下までつぶさに観察していたからなのかと。

異界から落ちて来たこの娘に、この世に知り合いと呼べる人間がはたしてどれほど居るだろう。

かつての“知り合い”によく似た人間を目の当たりにして、この娘がいったい何を思ったのか。


実際のところは俺にもわかりゃしないが、まあ、驚きはしただろう。そして戸惑いもしたに違いない。


━━━ それから ━━━?


そいつがどんな“知り合い”だっかたかは知りはしないが、 それがただのよく似た他人だと気付いて。


「・・・・・・・・・・」


━━━俺にはわからない、が。

動揺したのは確かだろう。店を出た直後のネージュの表情がかなり強張っていた。


「なんだいシグルーン、あんたにしちゃ珍しく静かじゃないか。料理に何か苦手な食材でも入ってたかい?」


「えっ、そーなの?」


「・・・あー、いや、別にそういうんじゃ」


もう今はいつも通りに見えるんだがな・・・。


この娘は明け透けなようでいて、実はかなり情がこわい。

これまで行動を共にしてきた経験から、些細な事で他人を頼るような性格をしていない事は把握済している。

・・・ネージュが何の気兼ねも無く甘える相手は、あの“親“くらいのものだ。


こちとらかなりの年長者のつもりなんだがな?

もうちょいこう、頼りにされてもいいはずだと思うんだがなぁ?おかしくねーか?

俺とあのケモノとで、何が違うっていうんだ。






━━━シグの様子が何か変だ。


午後になってクーベルテュールの街から引き上げてからずっと、シグは時折チラチラとこっちを見て何かを言いたそうにしてる。


今回私は街で少しばかりナーバスな気分になる出来事があって、帰り道ではかなり不機嫌面をしてたと思う。

いつも余計な一言で他人の(主に私の)神経を逆撫でするシグが、今日に限って珍しくその辺りを追及してこなかったのは助かったけど。

何も言わずにずーーーっと、チラチラチラチラこっちの様子を横目で窺ってこられるのも、正直かなり鬱陶しい。


だからといって訊かれもしないのに、こっちの事情をベラベラと話す気にもなれないしで、どうしたものかと思っていたら━━━。


寝る前にお風呂に入ると言って浴室に向かったシグが、出て来た時にはいつもと違う姿をしててビックリ。



「白モフ狼バージョン!」



ナニソレ、私を誘惑してんの!?である。


天狼のお母さんほどではないとはいえ、狼姿のシグはそれなりに大きくて嵩張る。

山猫シグの二まわり以上大きい狼の身体だと、建物の中で過ごすには些か窮屈過だという、尤もな理由から普段獣化する時はもっぱら山猫の姿をとるようにしてたみたいだったのに。

何故に今━━━━その姿。


「くぅ・・・、モッフモフ・・・!」


尻尾がフサフサだよ!タテガミがバー━ーン!で、お耳がピン!だよ!

ささくれ立ったハートに癒しが必要な今この瞬間にぃぃぃーーーーー!!


「・・・そっちから誘っといて、後から『そんなつもりじゃなかった』なんて言い訳無しだからねっ・・・。私の目の前に毛皮を晒して、そのまま清いカラダでいられると思ったら大間違いだぁぁぁシグルーーーン!!」


覚悟しやがれ、手込めにしてやらああああーーーーーーー!!!!


ルパンダイブで突っ込んで行った私に、狼の顔が一瞬ギョッとしたようにも見えたけど、キニシナイ。

だって切実に癒されたかったんだもん。



この晩私が獣化したシグが口をきけない事をいい事に、とことん毛皮を撫で回し、心ゆくまでモフモフを堪能したのは言うまでもないが・・・・・。



数十分後に“息も絶え絶えになった全裸男の上に跨がる女”という変態臭いシチュエーションが具現化して、羞恥の余りオーブンに飛び込んで死にたくなった。






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