乙女と晴天の霹靂
青空市は午後になると急速に客足が疎らになる。
足の早い生鮮食品や人気の売れ筋商品は、午前のうちに早々と売り切れてしまうのをお客さんも知っていて、自然と足が遠退く形になるからだ。
私のお店の場合、即日売り切らなければなら傷んでしまうような品を扱っていない事もあって、午後の営業は粘らず毎回早目に切り上げるようにしている。
今日も午後二時過ぎにはお店を畳み、一度グウィネスさんの倉庫に荷車を置きに戻ってから、今度は別の用事を足すために再び街中へ出てきていた。
「ちわー三河屋でーす。御用聞きにまいりやしたー!」
「・・・お嬢ちゃんのその毎度よくわからない口上は、何なのかな?」
「様式美というやつです。ニアさんこんにちわ」
「はい、コンニチワ。いらっしゃいお嬢・・・とおっかない美人の兄さん」
「・・・チッ」
「シ~グ~~~?」
やって来たのはお馴染みの《魔道具屋キャリコ》
最近は青空市の帰りに必ず顔を出してて、こまめに魔道具の魔力充填を請け負うようにしてる。いいお小遣い稼ぎになるからね。
でもなんでか知らないけど、シグは初対面の時からニアさんに対して風当たりが強い。
同じ猫科の種族(?)同士なのに反りが合わない部分でもあるのかな。
・・・といっても、シグの場合色々と混じってるみたいだし、そこらへんの事情はよくわからない。
「今日、魔力の補充が必要な魔道具ってあります?」
「幾つか預かってるのがあるよ。いつも通りお願いしていいかな?」
「うん」
「えぇっと、どこにやったっけな・・・。あ、そうだ親父が奥に━━━」
「ちょっと待ってて」と言い置いて、一旦奥に引っ込んだニアさんがカウンターに戻って来た時、その手には綺麗な螺鈿の装飾が施された飴色の箱があった。
「これなんだけどさ」
促されるままに蓋を開けた私は、中身を見てちょっと驚いた。
「これ・・・自鳴琴?」
それもシリンダー型じゃなくて、ディスク型。向こうだとアンティーク扱いだから、私も実物を見るのは初めて。
しかも“魔道具”という付加価値を差っ引いても、美術品としても充分に通用しそうな立派な拵えだ。
「何日か前にお客さんから預かった品なんだけど、思ったより魔力容量が大きいみたいで、うちの親父じゃ手に負えなくてさー」
私はすぐさま自鳴琴の内部に組み込まれている魔晶石に向けて魔力を注ぎ始める。
魔道具作りに関わる人間の一人として(ただのお手伝いだけど)純粋に興味が湧いた━━━というか、単に年頃の乙女としてこういうキラキラした物は普通に好きだし。
自鳴琴に魔力を注ぎ続けてしばらくすると、かざした掌に魔力が軽く押し戻されるような感覚があって、魔力充填が完了した事が伝わった。
「はい、終わり」
「うっわ、早っ!流石はお嬢~そこらの魔法使い顔負けの仕事っぷりだねぇ」
「これしかできないけどね。━━━ニアさん、これ起動してみてもいい?」
「いいよー。正常に機能するかどうかの確認もしないとだし」
「じゃ、いきまーす」
昼下がりの魔道具屋の店内に、自鳴琴独特の硬く澄んだ音色が響き、初夏の熱気がこもる室内に清涼な水の流れにも似た涼やかな調べが満ちる。
その、音を刻む銀盤の上で、くるくると回りながら踊る一組の映し絵の男女。
━━━なんとこの自鳴琴、3D機能搭載の魔道具だった。
キャストはさしずめ王子様とお姫様といったところ。
「凄い!可愛いぃ~!キレイ!こんなの初めて見た!」
科学技術顔負けの高機能仕様だね!あっちでも見た事なかったよ。
「うちは実用品一辺倒だから商品として扱った事はないけど、富裕層で結構人気の魔道具だよ。装飾も多種多様で飾って置くだけでも見映えがするし、製作者によって仕掛けが違うから収集する人もいたりしてさ」
「ふんふん、なるほどー」
やっぱり魔法の影響なんだろうけど、こっちの世界って全体的に生活様式がアナログなのに、時折驚くほど高機能な魔道具があってたまにビックリする。
もちろんそういう品はとても高価で、なかなか一般の人は手が届かないんだけど。
いわば高級外車とか宝飾品みたいに、完全に“贅沢品”の部類というか。
「それにしても、この音色・・・」
初めて聴くのにどこか懐かしい感じがする。
なんとはなしに聴き入って、三回ほど同じ曲が繰り返された辺りで、店の扉のベルがチリンと鳴って新たなお客の訪れを報せた。
「━━━ああ、良かった。その自鳴琴、魔力の補充が済んでたんですねー」
咄嗟に声のした方向を振り向いた私は、そこに信じられないものを見つけて、言葉を失った。
・・・・・なんでこんなとこにいるの、この人・・・・・。




