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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女と書いて『ようじょ』と読・・・んだりはしない

私の青空市への出店はだいたい五日に一度。


現在、保護者全員(“お母さん”を含む)から単独行動を禁じられている私は、毎回シグをお目付け役として同行する事を条件に、どうにかこうにか自立への第一歩を踏み出した。


シグに関してはまるきり無料奉仕もなんなので、報酬代わりにお弁当をうんと奮発する事で納得してもらった。

市に参加する当日はいつもより少し早めに起きてブランチ用の食事を多目に作り、グウィネスさんの分を取り分けた後で残りをランチボックスに詰めるんだけど━━━━



「なーなー、今日の昼飯何だ?」


「昨夜の山鳥のローストの残りでサンドイッチね。あと色々」


「コーヒーは?」


「魔法瓶に入れといたわよ」


「・・・一切れ味見」


「せめて向こうに着いてからにしない?」


「育ち盛りは腹が減るんだ!」


「六十過ぎが何言ってんだか・・・」


こんな感じで毎回しつこくねだられ、味見と称してかなりの量を食べられてしまうのが困りもの。


「シグ、口の端にソース」


「ん」


モシャモシャ摘まみ食いしてる顔は悪童そのものなんだけどね・・・。

口許を拭った指を舐めとる仕草がいちいち十八禁めいて見えるのはなんでかな。




クーベルテュールの街までは魔方陣で一瞬だ。

木箱やカゴに入れて持ち込んだ商品を、幌付きに改造した小さな荷車に積み替えていざ出陣。

あれこれ積み込んだ荷車は結構な重さになるけど、グウィネスさんが軽量化の術式を刻んでくれたから私でも楽々引ける。


「それくらい俺が運んでやるぞ?」


「いいのいいの。これくらい自分でやんなきゃねー」


それに、この超絶美貌のあんちゃんに、荷車を引かせる勇気は私には無い。

似合わないにも程がある。


「そもそも私が始めた商売なんだから、一人で切り盛りできなきゃ独り立ちなんか夢のまた夢よ!」


「・・・そんなもんか?」


「そんなもんよ」


早朝の街角、市が開く時間に向けて石畳の路地を荷馬車や荷車が何台もガタゴトと音を立てて行き交う。

仮設のテントを張るような大きなお店を出す人はその分場所取りが大変だけど、私は小さな荷車一つだからちょっとした空きスペースさえあればどこでも店開きできる。

小さいと他のお店に埋もれちゃって目立たないのが難点だけど、そこは呼び込みや接客でカバーだ。



「いらっしゃいませー。旬の果実のジャムはいかがですかー?新商品の焼き菓子も各種揃ってまぁーす!香草茶の試飲もできますよぅー」



噴水広場の青空市は食品や雑貨といった日用品を扱うお店が多い。

こじんまりとして家庭的な雰囲気は子供や女性が一人でも気軽に立ち寄り易く、実際に訪れる買い物客の大半は女性。


通常お店は私一人で回していて、シグは基本何もしない。ただ座ってるだけ。

開店するや否や折り畳み式の椅子を取り出してドッカリと座り込み、のんびりと珈琲なんぞを飲み始める良い御身分だ。

まぁ、シグが接客を始めたりしたら、それはそれで面倒臭い事になるのは確実だから、日向ぼっこでもしててもらうのが一番良いのかもしれないけど。


何もしなくても人目が集まっちゃうのは、もうどうしようもない。



「スグリのジャムを一瓶と焼き菓子の包みを二つ下さい」


「お買い上げありがとうございまーす。全部で百三十ギルダでーす」


「お茶の試飲ができるのよね?試してみてもいいかしら?」


「はーい、すぐにご用意しまーす」


「あっ、お店の正面に立ってたら邪魔になるわよねぇ!私、横にどいて待ってるから、お茶の準備は後回しで構わないわよ。他のお客さんの相手をしてあげてね」


「・・・こっちにもお茶、下さいっ」


「じゃあ、あたしも!」


喫茶店じゃないんだけど・・・ま、いっか。


女子のお目当ては当然シグで、お茶の試飲を口実に長居して然り気無く接近を狙ってる。

そのわりに会話の糸口がなかなか掴めなくてチラチラ様子を窺ってるだけとか、なんでだろ???

ああー・・・あれだけ顔が良い相手だと緊張するのか!・・・中身はアレなんだけど。


「ネージュ」


「んー?なに?」


「嬢ちゃん達に焼き菓子を一つずつサービスしといてくれ。俺のツケで。茶ぁ飲むんだったら甘味は必需品だろ?」


狙っていた男子からの思わぬ奢りに、『嬢ちゃん』と呼ばれたお客さん達から小さな歓声が上がった。


嬢ちゃん・・・、なのか?私より確実に年上のマダムに見えるんだけども。

いやいや、実年齢が六十オーバーのシグから見れば、十代も二十代も全部『お嬢ちゃん』の括りに入るのかもしれないし。


と思って後でシグに確認したら、


「はあ?ありゃまだ十代の娘っ子ばっかしだったろうが」


━━━だそうだ。


つまり、私がてっきり妙齢の人妻だとばかり思ってたお客さんは、私と同年代の娘さん。


ボーン!キュッ!ズドオォーーン!・・・の、あれがあぁぁ!?!?


どうりで・・・なんだかお客さん達の私を見る目が慈愛に満ちていると思ったら。


“小さいのに一生懸命働いててエライのね”


・・・・・という、視線だったと・・・!

いったい何歳に見えてるんだ、私ぃ!!

一応身長は百六十あるし、む・・・胸だって、・・・・・・無いけどっ!!

これでももうじき成人オトナなのに━━━━。



この日ほど人種の壁が厚いと感じた事はなかった。


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