表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
59/156

保護者と乙女と

シグルーン視点。

この世で異種族間の婚姻において誕生した“混じりモノ”と称される者の立場はひどく弱い。


どんな種族の組み合わせにしろ同族間の夫婦に比べて格段に子が生まれ難く、運良く授かったとしても生まれてくる子供は短命である事が多い。

そしてどちらの親の種族にもなりきれない子供は、やがて群れの中で浮いた存在となり、いずれそこから弾き出されてしまうのが常だ。


迫害とまではいかないまでも親子共々肩身の狭い思いをする事はまず間違いなく、閉鎖的な群れの中で完全に孤立するよりはと、敢えて子連れで純人ヒトの国に移り住む異種族婚夫婦もいる。


多少の偏見や差別があったとしても、純人はその異種族が“純血”であるかどうかで区別する事がないため、血の繋がった同族に冷遇されるよりまだしも耐えられると感じるのかもしれない。


かくいう自分もその“混じりモノ”の一人だ。


ただ自分の場合、単なる混じりモノというより“ごちゃ混ぜ”という方が正しいのかもしれない。

どうやら先祖がかなり自由奔放な性質たちだったらしく、何代にも渡って種族の枠に囚われない婚姻を繰り返した結果、よりにもよって子孫である自分に複数の種族の能力が顕れやがった。


有り体に言うと獣人系の種族が獣化して獣の姿をとる場合、変化できる姿は一つに限られているが、それは異種族婚で生まれた子供も同じで、片親の能力しか受け継がない、もしくは獣形をとることすらできない場合もある。


それが、どういうわけだか自分は複数の形態を自在に使い分ける事ができた。

控え目に表現しても『異常』だ。

もう記憶の片隅にしか存在していない育ての親には、その能力を人前では極力隠すようにと口を酸っぱくして言われ続けたものだ。


だから出会ったばかりのあいつに、ついポロリと口を滑らせた時は内心“しまった”と思ったもんだが、あいつはただ単純に驚いただけでその異常性について言及してくる事はなかった。

・・・今ならわかるが、あの時、異界人のあいつには何が普通で何が異常なのかサッパリ区別がついてなかったんだろう。


自分の知る常識で測る事ができない世界で、目の前の人間が何に化けたところで“それが普通”程度に考えてたのかもしれない。

笑うしかねえ。


一度あいつの目の前で獣化してからは色々取り繕うのも面倒になって、その後も度々狼の姿で気儘に走り回ったものだが、流石に初めての時は少しばかり身構えた。


純人にんげん獣人ケモノビトが獣姿を晒した途端、それがどんなに親しい相手だったとしても、怯えや侮りといった類いの仄暗い感情を眼に滲ませる。

こればっかりは何度体験しても面白いもんじゃねえ。


だがあいつは狼の姿をとった自分を見て、デッカイ目玉を更に見開いただけで、そのまま鼻息も荒く突進かましてきやがった。



『モフモフわんわーん!!』



とか、失礼な事をぬかしくさって。

身構えてたこっちがアホらしくなる感じだった。


に、してもだ。大抵の女が目の色を変えて食い付く人型の時の顔には直視を避けてやがるくせに、獣化した途端飛び付いてくるとはどういうこった。


━━━しかも、手前ぇを拐った天狼が『親』だと!?

どこをどう繋ぎ合わせたらそういう話になる!!


本人が勝手にそう思い込んでいるだけかと思えば、天狼の方も我が子同様にあいつを構う。

母子の情愛が深い事で知られる天狼が、己の敵ともいうべき純人の娘を大事に懐に抱え込んで。


━━━━有り得ねえ。


風を操り嵐やいかづちを起こして時に天候まで左右する天狼は、生ける災害として“遭遇したら最期おわり”とまで言われている。

その能力と姿の美しさから雛を狙う輩が後を絶たないが、何の枷も拘束も施さずに飼い慣らした例は無かったはずだ。


いや・・・・・飼い慣らす、というのとは別次元の話か。

どちらかというと飼われているのはあいつの方だしな。扶養家族的な意味合いで。


だが、その天狼親子に抱き付いて屈託なく笑うあいつの表情を見てると、そういう事だったのか、とも思う。


年齢としが十八と聞いた割には幼げな容姿だと思っちゃいたが、中身もそれなりにお子様だったってこった。

・・・親に甘えたがる子供が相手となりゃ、ここはひとつ年長者おとなの出番じゃねえか?


さあ、心おきなくモフるがいい━━━━と、以前あいつが気に入った様子だった山猫の姿になって目の前に出て行けば。

案の定あいつは目の色を変えて飛び付いてきた。


だがしかし。



あーそこそこ。おおおおお!気んもちいぃぜええええぇーーー。


あっ、やめろ!くっ。そ、そこはっ・・・ヤバい!


だああああーーーーーっ!!



巧みな指技に翻弄されて、誇り高き獣人の末裔が腹を出してアヘ顔を晒す事になろうとは、情けないやら恥ずかしいやら。

混乱して思わず獣化が解けちまったじゃねえか!!


自分でも何がしたかったのか、結局よくわからないままになっちまったが。

でもまぁ、あいつはシケた面してるよりギャンギャン吠えてる方がいい。


どこを見てんのかわからない表情でションボリされるより、ずっと似合ってる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ