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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女の世間体

━━━シグが変だ。


昼間私が天狼のお母さんやチビちゃんといつものスキンシップをしてるのを、ずっと横目で眺めてたんだけど。


二人が山に帰った後になんとなくソワソワしだして、「汗でも流してくるかー」とかってお風呂場に向かったかと思ったら山猫の姿で戻って来て、私の目の前で居間の長椅子にゴロリと横になった。


しかもなんかやけにこっちをチラチラ見てくるじゃない?

・・・・・・・私にどうしろと!?


犬科の毛皮を散々モフった後でなんだけど、猫科の毛皮の魅力はまた別物だ。

モッフモフかつシルキーなあの手触りを思い浮かべただけで、両手がワキワキしてくる。


「・・・誘ったのはそっちだからねっ」


“据え膳食わぬは乙女の恥”っとな。

私はいつになく好戦的な気分で魅惑の毛皮に立ち向かった。


ファイトォォーーー!いっぱああぁーーーつ!!


「あぁん、手触り最高ーーー!!イイ!凄くイイ!」


モフモフモフモフ モフモフモフモフ

むっふぅ、たまらぬわぁぁーーー!!


顎の下、耳の後ろ、首の付け根と、にゃんこの撫でポイントを立て続けに容赦なく攻め、ついでに腰の辺りをトントンと軽く叩くと、山猫シグが気持ち良さげにぐぐっと伸びの姿勢をとる。


山猫姿のシグは狼の時より二回りぐらい小さいけど、それでも普通の猫とは比べ物にならないぐらい大きい。

本来なら間違っても気安く撫で回せるような生き物じゃないし。

これが野生の山猫だったら、人間わたしなんかガブリと殺られてイチコロよ。


「ふふ、憧れてたんだよねー。トラとかライオンとか、大っきいにゃんこにハグするの。思いがけず異世界こんなとこで夢が叶っちゃったよ」


いつになく気分がハイになった私は、ついうっかり相手がただの獣じゃないという事を忘れ去り、大山猫の首を抱いて頬擦りしたあげくに鼻チューまでかまし、ここで何故かいきなり人型に戻ったシグに度肝を抜かす羽目になった。



「うおぉおおぉうっ!?!?!?」



なんてったって年頃のムスメが全裸の男に跨がるような格好で相手にのしかかってるんだから。そら自分でも驚くわ。


「だから、なんで元に戻るのよ!!」


「なんかこのままヤられそうで怖い」


「・・・チッ、何をいまさら生娘みたいな事を」


「男の腹の上で堂々と開き直ってんじゃねえ、この獣好きめ!」


「ケモナーが獣好きで何が悪いのさ!!毛の生えてないシグなんて“クリー○の入ってない珈琲”だよ!うわぁん!ガッカリだーーー!!」


「お前な・・・よくも人の事を丸ハゲみてーに・・・」


いきなりお楽しみを中断された私は、毛の無い男の胸板に突っ伏してガックリと項垂れた。

腹いせに拳で上半身をポカスカ叩いてやったけど、これっぽっちもダメージになってない様子に更に腹が立った。



「ナニやってんだい、あんた達は」



呆れたような声がして顔を上げると、居間の入り口でグウィネスさんが頭痛を堪えるような表情でこっちを見ている。


「そういう事はもうちょい暗くなってから、部屋の中でやっとくれ」


「━━━へ?」


「はあぁ?何言ってんだババァ・・・」


第三者の目線で指摘されて、いまのこの状況がとんでもなく変態臭いと改めて気付いた瞬間、私は猛烈な羞恥心に襲われ頭の中が真っ白になった。



「い”っ・・・イ”ヤ”アアアアアーーーーーー!!もうお嫁にいけなあぁーーーーーいっ!!!」



白昼堂々と全裸の男に跨がる乙女がどこにいる!?!?

━━━ここにいたよっ!!チキショーめ!!

たとえユニコーンの判定が『白』と出たところで、はたして世間はその娘を『清純』とみなすだろうか。


「シグの大馬鹿野郎ぉぉぉ!なんで最後まで獣姿でいなかったのよーーーーー!!」


顔から火を噴きそうな気分で私はその場から逃走し、しばらく異界部屋に立て籠った。





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