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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女と桜の園

「大事な事だから」とグウィネスさんに念を押された上で、私は今度こそ包み隠さず真実を吐かされた。


元の世界でバカップルの痴話喧嘩に巻き込まれ、歩道橋から落下したあの一件から現在に至るまでの経緯とその詳細を洗いざらい━━━。


あとまだ私に吐ける物が残ってるとしたら胃液ぐらいだ。



「なんというか、あんた・・・。よくよく運の無い娘だねぇ・・・」


事の大筋を把握したグウィネスさんの第一声がこれ。


確かに、赤の他人の痴話喧嘩に巻き込まれて転落死しかけた時点で、既に運が良いとは言えないけども。

その後も飛んだり落ちたりしながら尚も生き延びてる私は、実は物凄く運が良いんじゃないかとも思う。

保護者にも恵まれたしね。


「でもこれであんたがとんでもなく常識に疎い理由がわかったよ。辺境育ちどころか異界の人間だったとはね」


「黙っててすみません・・・」


「ああ、いや。別にそれを咎めてるわけじゃないさ。そんな事情なら保身を優先して当たり前だし。誰彼構わずペラペラと自分の素性を明かしてまわる方が大問題だ」


「デスヨネー」


「そもそも『異界』なんてものは、お伽噺の中の存在ものだと誰もが思ってるからねぇ。異界人ですと名乗りを上げたところで本気に取る人間なんかいやしないよ」


「・・・それ聞いて安心しました」


肩の力が一気に抜けた気がした。

自分で思ってた以上に身バレした時の不安が強かったみたいだ。

ていうか身バレの相手がこの二人だったから、平然と受け入れてもらえただけな気もするけど。



「━━━なぁ、ひとつ訊いていいか」


今までおとなしく聞き役に徹していたシグがここで口を開いた。


異界あっち側の家の、窓や扉が開かなかったのはなんでだ?」


「・・・・・それ、今訊く?」


敢えて触れたくなかった部分を思いっきり鷲掴みにするあたり、相変わらず空気読まなさ過ぎるあんちゃんだ。


「シグルーン」


どこか呆れたような響きを含んだグウィネスさんの声。

彼女は多分気付いてて何も言わないでくれている。


「━━━窓の外に、きれいな薄紅の花をつけた木が見えたでしょ。あれ“さくら”っていうんだけど・・・満開になるとあっという間に散って見頃が過ぎちゃう花なんだ。私がここに落ちて来る前、丁度見頃の時期だったんだけど・・・」


あれからゆうに一月ひとつき以上が経過している。

本当なら今頃とっくに葉桜になってなきゃおかしいんだよ。


「私の家の中、時間が止まってるみたいなんだ。きっとそのせいで外側に干渉できないんじゃないかと思う」


「・・・あ?」


実際は本当の事なんて何一つわからない。

私が異界に落ちたのも単なる事故みたいなもので、理由なんて特に何も無いんだろう。

『たまたまそこに穴が飽いてたから』とかね。


そこにムリヤリにでも何か理由を探したくなるのは、それが全く意味の無い出来事だったと思うと、あんまりにも腹立たしいからだ。


この先もずっとあの世界で生きてゆく為に、必死でがんばってきたのに。

色んなものを諦めたり我慢したりしながら、ずっとずっと努力を重ねてきたのに。


突然意味も無く消えなきゃならなかった、“私”の存在意義って何?


砂浜から一粒の砂が消えたところで、世界は何も変わらないだろうけど。

私は、せめてちっぽけでもそこに“何か”を残してきたかった。


━━━━ もう、叶わないけど。


目の前の佳人が薄い氷翠の眼を瞬かせて首を傾げる。

・・・まだよく飲み込めていないみたいだ。

こんな時にまで鈍さを発揮しなくてもいいだろうに。


私はシグと出会ったその日に口にした事を、もう一度言葉にするために口を開いた。






「・・・多分私は一度死んだ人間なんだよ、シグルーン」



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