時として残酷な乙女の真実
「ど・・・どういう事・・・!?」
開いた口が塞がらない、とはこの事だろうか。
なんか意味合いが違った気もするけど、今の私の心情としてはとにかくそんな感じだ。
グウィネスさん家に用意された、自分の部屋のクローゼットの向こうに、忽然と現れた日本のマンション。
・・・・・・・・こっ、これはもしや━━━━━━。
「例の『どこ○も扉』━━━━━!?!?」
『二度ある事は三度ある』
躊躇いなんか一瞬も感じなかった。
死ぬほど恋い焦がれたものが目の前にあって、手を伸ばさずにいられる人間がどれだけいるだろう。
━━━━私は、クローゼットの縁に手を掛け、一跨ぎに“そちら側”へと足を踏み入れた。
「私の・・・私の家だぁ・・・!!」
何もかもが最後に部屋を出た時のままだった。
引っ越し業者に大きな家具を配置してもらった後、自分好みの小物を揃えてレトロモダン調に仕上げた内装も、荷ほどきが終わらず積み上げたままになっている段ボール箱も。
「・・・ほんとに帰って来れたの?」
こんな都合の良い話ってあるだろうか。
しかもなんでこのタイミングで━━━━━。
慌ただしく室内のあちこちを見回し、ふと窓の外の風景に目をやった瞬間、私はなんとなく違和感を感じて動きを止めた。
なんだろう・・・何か・・・変だ。
頭の隅で微かな警鐘が鳴り始める。
これ以上考えたらいけないと、残酷な真実から目を背けさせるように。
気付いたらお仕舞いだ、とでも言うように。
━━━━だけどその仄暗い空気は、次の瞬間騒がしい気配にかき消された。
「何がどうした小娘ぇ━━━━━!!」
「何事だいハネズ!?」
「あ」
あれだけの大声で叫べば、この二人に聴こえないはずもないか。
クローゼットの向こう側からこちら側を覗き込む二人の顔は、唖然としたものだった。
「なんだこりゃ・・・、いつぞやの謎扉みてーだな。中へ入って大丈夫なのか?オイ」
「・・・なんだって家の衣装箪笥がこんな事になってんだい。何処だい“ここ”は」
驚きつつも二人は何の恐れ気もなく、未知の空間に気軽にヒョイと足を踏み入れた。
シグは多少慣れがあるにしても、グウィネスさんは・・・なんというか豪胆な人だ。
「危ない場所じゃないから大丈夫ですよ。━━━私の家です」
「お前の?」「あんたの?」
キョトンとした表情がそっくり同じで、ちょっと笑える。
やっぱり似た者同士かも。
二人にとっては見慣れない道具がところ狭しと並ぶ室内を、お互いしげしげと物珍しそうに眺めた後、窓の外の景色に視線をやったグウィネスさんがズバリと核心を突いてくる。
「━━━で、ここは『何処』なんだい?ハネズ」
ああもう、こうなったら全部白状するしかなさそうだ。
なんたってグウィネスさんの目が好奇心でキラキラ━━━というか、ギラギラ滾っていて、どうにもお茶を濁せる雰囲気じゃない。
「・・・説明する前にちょっと確かめたい事があるので、少し待ってもらえますか」
まず最初に、一番心配だった冷蔵庫の中身をチェック。
新しい生活を始めるために必要な食材や調味料を買い込んで、ぎっしり詰め込んでいた冷蔵庫。
異世界落ちした日から一月以上経った現在、どんな腐海に成り果てていることか。
おそるおそる扉を開いて・・・・・あれ?
「・・・あんまり変わってない?」
未開封のドレッシングやバターはともかく、肉や野菜とかの生鮮食品なんかはとっくに傷んでなきゃおかしいのに。
・・・まるで昨日買ってきたみたいに新鮮そのものだ。
次はテレビのリモコンに手を伸ばしてスイッチをオンにする。
━━━━ 砂嵐。
どのチャンネルに切り替えても映らない。
ハードに録画してた映像以外は全滅。ネットも繋がらない。
・・・首筋を冷たい掌で撫でられたような、ヒヤリとした心地に襲われ、窓のある方を振り向いた。
窓の外に見える桜の花。
━━━“あの日”のままの景色。
「・・・っ!!」
窓に駆け寄り鍵に手をかける。
開かない。
家中のどの窓も、玄関のドアも、まるで壁に描かれたフェイクみたいに固く閉ざされて開かない。
ああ、やっぱり。やっぱり私は━━━━・・
「・・・・・っ」
突然家の中を走り回ったあげく、玄関の扉にもたれてずるずると崩れ落ちた私を見て、二人が驚いたように駆け寄り口々に気遣う声をかけてくれたけど、無情にも目の前に現実を突き付けられた衝撃で、私はしばらくの間言葉を発する事ができなかった。
地球側の世界での『冬木華朱』の時間は、もう二度と動き出す事はないのだと。
━━━━私が、既に一度死んだ人間だという事実を。




