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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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後ろ姿の真実と乙女

前日のアレコレで思ってた以上に疲れが溜まっていたらしく、翌朝私は派手に寝過ごした。


「すみません!寝坊しましたーーー!」


目が覚めて窓辺の日時計を確認した私が慌てすてエプロンを掴んで居間に降りると、テーブルの上には既に早朝のお茶を済ませた形跡あとがあり、グウィネスさんは分厚い本とにらめっこの最中だった。


「おや、もう起きたのかいハネズ。まだ休んでいてもよかったのに」


「いえ!もう充分です」


家事手伝いが主な役割の居候としては、そんなわけにもいかない。

家主を差し置いてタダ飯食らいの小娘が優雅に朝寝なんぞしてられますかって話よ。


昨日の強制転移(?)での帰宅の件についてはまだ何一つ解決してない状態なんだけど、それは私が考えてどうにかなるもんでもない。

私に出来るといえば━━━━━。


「これから朝食ブランチの準備しますね。献立に何かリクエストありますか?」


「お任せで」


「了解です!」


昨日市場で買い出しをしただけあって、厨房キッチンの食品棚には常温保存可能な食材がぎっしりと詰め込まれていて、今なら何でも作れそうだ。

鮮度が命の生鮮食品類は昨日のうちにまとめて低温貯蔵庫の方に運ばれている。


「チーズとタマゴでオムレツ・・・ホウレンモドキとベーコンたっぷりのキッシュ・・・うーん、葉物野菜のサラダなんかもいいかも。確か庭にクレソン(モドキ)が自生してたよね・・・。よし、摘み行くか」


メインの食事が一日二回なだけに、朝食といえどそのボリュームはかなりのものになる。

肉体労働者や中産階級くらいまでの人達は一日三回の食事が一般的らしいけど、夜が明けるのと同時に働き始める必要性のない富裕層の人達は、あえて一日二回で済ませる事が多いらしい。

その代わり日に何度となくお茶をみながら軽食を摘まむ習慣が生まれたんだとか。


グウィネスさんの場合は単にものぐさで、独り暮らしで何度もわざわざ厨房に立つのが億劫だったんじゃないかと思う。

やれば色々出来る人なのに『面倒臭い』の一点張りで、石みたいに硬い乾パンで何日も過ごした事もあったみたいだ。


RPGとかで定番のアイテムボックス的な魔道具モノがあれば便利なんだけどなぁ。

いつでも好きな時に食べられるように、調理済みの料理をたくさんしまって置けるような、四○元ポケット的なやつ。

でもねぇ、転移の魔方陣もそうだけど、『空間』に手を加える魔術ってとんでもなく高度な技術らしくて、おいそれと一般家庭で収納庫代わりに使えるようなもんじゃないらしいんだよね。

この家の貯蔵庫はあくまでも室温が調整されてるだけで、『空間拡張』や『時間停止』といったファンタジーな機能は一切付いてない。





ハーブを摘みに勝手口から表に出たところで、庭先で剣を振るシグの姿が目に入った。

普段の自堕落な様子とは打って変わって、鋭く引き締まった表情かおがまるで別人のようで、思わず二度見をしてしまう。


うわ・・・普通に格好良い・・・!!


細身とはいえかなり上背のあるシグが、全く体重を感じさせない滑らかな動きで剣を振るう姿は、惚れ惚れするほど様になる。


斬る、突く、払う、薙ぐ。


流れるような一連の動作はまるで剣舞。

チラ見のつもりでいたのに、ついつい目が離せなくなってガッツリ見入ってしまった。


ついこの間までの“お爺様”状態の姿形ナリでさえ、城を傾けそうな美丈夫だったってのに。

すっかり若返った現在いま、正面きって目を合わせたが最期、魂を引っこ抜かれそうな人外魔境の超絶美貌チョーゼツビボーへと進化(?)を遂げている。

もしあれで外見に釣り合う中身を備えてたりしたら、たちどころに私の不治の病が悪化していたところだ。


「ネージュ、腹へったー」


ひとしきり身体を動かして気が済んだのか、剣を鞘に収めたシグがこっちを振り向いた。

私が見てたのなんかとっくに気付いてたって事だよね。


「・・・欠食児童か」


「肉体労働に従事する人間は一日三食が基本なんだぜ。二食じゃとても身体が持たねーよ」


「普段働いてもいないくせに何言ってんの」


刀身を収めた鞘でトントンと肩を叩きながらぼやくその様は、さながら木刀を構えたヤンキー。

さっきまでの美々しい刀剣男子の雰囲気は何処へやった。


「急いで朝ごはん作るけど、なんだったら作り置きの焼き菓子でも食べて待ってて」


「おぉ、食う食う」


「ちゃんと手を洗ってからよ!」


「・・・だから、オマエはお袋かよ」


ピチピチの十代の乙女に対して何を言うか、この似非エセ若人わこうどは。





「あー食った食った。んじゃ、俺ぁもういっぺん体動かしてくるわー」


豪勢とはいかないまでも日本人の感覚としてはそれなりに質も量も揃った食事を軽く三人前はペロリと平らげ、剣を片手に再び庭に出て行くシグの後ろ姿を見て私の口からつい率直な感想が漏れた。


「違和感無さ過ぎー・・」


「何がだい?」


何の脈絡も無い私の呟きに、グウィネスさんは食後のお茶を飲む手を止めて首を傾げた。


「━━━いえ、ついこの間まで壮年の・・・というか、初老の男性だったにしては、『新しい自分』に馴染むのが随分早いな、と。普通、いきなり若返ったら戸惑いませんか?肉体的にも精神的にも━━━。だけど、シグを見てるとこれっぽっちも変わんなくて」


子供の身体が成長を果たすと同時に大人としての言動を求められるように、よわいを重ねるごとに病み衰えてゆく人間の肉体からだに宿る精神こころもまた、等しく老いてしまうものではないだろうか。

シグは元々お年寄りっぽい言葉遣いをしない人だったから、余計に違和感が無いのかもしれないけど。

普通はあんな風にすぐ馴染んだりしない、というか出来ないんじゃないの?


━━━と。思った事をありのままに述べると、何故かグウィネスさんが急にプルプルと肩を震わせ始めた。


「━━━━━━━・・ブフッ!!」


「・・・ウィネスさん?」



「あっはっはっはあああーーーーー!!ヒィイイーーーヒヒヒ!ヒャヒャヒャッ・・・・・ぐふ、ゴェッ」



突然笑いの発作を起こし、バンバンとテーブルを手で叩きながら身悶える。

まさか・・・食事に笑い茸でも混入してたっ!?


「ウィ・・・ウィネスさん!どこか具合が━━━━っ」


「アッハハハ!ああ、可笑しい、・・・・いや、そういうんじゃないから、ブフフーーー!」


単なる笑い上戸だった。


「あたしがあいつにかけた術は、肉体の表面だけを普通の純人にんげんと同じ早さで老化させる━━━━老けて見える『だけ』だったんだよ」


「え、つまり、それ・・・」


「見た目『だけ』は年齢相応でも、筋力や持久力とかは若いまま維持されてたはずだから、奴が衰えを実感する事は無かっただろうねぇ。頭の中身もそれに引きずられてたに違いないさ」


「ええぇ・・・」


「つまり、あいつは、頭の中身が若造ガキのまんまってことさ!六十余年も生きてて!!

違和感なんざ無いはずさ!おつむの中身がてんで成長してないんじゃね!!ぎゃははははは!!!」


ええええええええ・・・・・・・・。


まさかの現在進行形で不良少年ヤンキー確定。


「勘弁して・・・」


見た目にそぐわぬ若々しいお爺様だと思ってたら。

その実中身はお爺様の皮を被ったただのチンピラ。


「なに、別に不都合は無いじゃないか。現在いまの見た目と精神年齢がバッチリ噛み合ってるんだから、ププッ」


「・・・それもソウデスネ」


なんかもー、アレコレ考えるの面倒臭い。

今後はアレを“見たまんま”の生き物として扱う事にしよう。





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