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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女の長い一日 その8

日没が近付いて薄暗さを増した屋根裏部屋に、ボンヤリと淡いオレンジ色の輝きを放つ球体が、ふわふわと風に流されるような動きで次から次へと窓から侵入して来る。


「これ・・・前に洞窟で見たやつ・・・」


━━━フェアリーランプ、だったっけ?

そもそも『生き物』なのか『自然現象』なのかすらも判明していない、不思議な存在だってシグが言ってた気がする。


ゆったりと流れに漂いながら、呼吸するように明滅を繰り返すそれは、私的にはどちらかといえば生き物に見える。


以前テレビのドキュメンタリー番組で見た、小魚が群れて大きな魚群を形成するあの光景。あれに似てる。

てんでバラバラに動いてるように見えて、ふとした瞬間に垣間見せる一糸乱れぬ動作とか、まるで全体でひとつの生き物みたいな不思議な感覚。


「・・・キレイ・・・」


部屋中がオレンジの光でいっぱいだ。

こんな状況でも人間て感動って出来るものなんだと、なんだかおかしな気分になる。


・・・でもそれはきっと、私が心底絶望はしていないからだ。


異世界に落ちて、誰とも出逢わないまま、誰にも心を預ける事が無いまま、今の状況に陥っていたなら。

これほど平静ではいられなかったと思う。

混乱して取り乱して散々泣き喚いたはずだ。

━━━最初の時みたいに。


だけどなんでかな、今はそんなに怖くない。


「・・・早く帰ってお母さんとチビちゃんに癒されたい。もふもふが恋しいよ~~、おかあさーん、チビちゃーん・・・」


あ、だめだ。思い出したら泣けてきた。


目許がジワリと滲んで視界がボヤけ━━━━たと思ったら、何故か突然身体がオレンジの光に包まれる。


「うひょ!?」


何がどうした!?なんでフェアリーランプが一斉に私目掛けて集まってきてんの!?

つかなんで勝手に人の身体をすり抜けてっ・・・・・・・・あああああああああーーーーーーーー!!!!



金魚ギョーーーーー!!」



好き勝手に人の身体をすり抜けてったフェアリーランプ達が、何故かまたしても全部金魚(トトちゃん)の形になって宙を泳ぎ始めた。


「なになに!?どうなってんの!?」


金魚の形を得たフェアリーランプはふわふわと外へ漂ってゆき、空中でヒラヒラと優雅にヒレを動かしながら群れをつくり始める。

色といい形といい本当に金魚の群れが空を泳いでるみたいだ。


「あっ・・・そうだ!!」


どんな理屈か知らないけど、私の身体を通る事でフェアリーランプがあの形になるっていうんだったら。


「━━━こっちにおいで、いいこだから・・・みんな。おめかししてみない?」


生き物かどうかさえ不明なフェアリーランプ。

だけど“それ”は確かに私の呼び掛けに反応した・・・ように思えた。

次々と集まってくるオレンジ色の光の球が、私の身体をすり抜けてフリルみたなヒレをまとった金魚に生まれ変わる。


瞬く間に夜空にオレンジ色の魚群が形成された。


「これでよし・・・!」







━━━ネージュの匂いが途絶えた。


初めて訪れた土地勘も何も無い場所で、闇雲に走り回ったところでらちがあかない。

ましてやこの迷路のような造りの街では。


どうしたものかと街をぐるりと見渡して、俺はふとある事を思い付いた。


━━━わざと複雑に入り組んだ構造つくりの路地。

同じ外観に統一され、()()()()に揃えられた建物。

ここが市街戦に備えた街だとすれば、絶対に必要不可欠な建造物が・・・・・・・あった。


街の中心部にある領主の館を中心に要所毎に配置された物見の塔。

統治者の眼前に全ての視界が開けるようにと、高さを制限されている市民街。


外側から攻めるとしたら、非常にやりにくい構造だ。

何しろ守る側からは全てが丸見えで、攻める側は戦力を隠して展開させる事が不可能になるからだ。

・・・だが今回はいっそ都合がいい。

要はあの天辺に登れば街中全部が見渡せるって事だ。


「さぁて一番近い塔はどれだ?」






取り敢えず壁を登ってみた。


物見の塔の一階が兵の詰所で、事情をいちいち説明するのが面倒臭くて中の階段を使うのは早々に諦めた。

上の見張り場にいた兵にはちょっくら寝て貰い、日没寸前の街並みにじっくりと目を凝らす。


・・・・・当たり前だが、特にこれといって変わった様子は無い。

辺りは段々と暗さが増してゆき、街の家々にはあかりがともり始める。


「どこにいる、ネージュ・・・」


━━━━まったく、どこのどいつだ。


ただ普通に動き回るだけで傷を負い、すぐに死にかける娘を、人の手の内からかっ拐って行きやがったのは!


「あいつになんかあったら、タダじゃおかねえ・・・」


胸の奥がジリジリと燻るような熱を発し始めるのに対して、思考はどこまでも暗く冷えてゆく。


「チッ、結局最後は勘に頼るしかねぇか・・・。あーあ、早いとこマーキングしときゃよかったぜ。そうすりゃすぐにでも居場所が・・・」


わかる━━━、と言いかけたタイミングで、視界の端に妙なものが映った。


街外れの住宅街とおぼしき一角に、群れ飛ぶ淡い光。


『フェアリーランプ』と呼ばれるそれは特に珍しいものでもなく、いつでもどこでも現れる“自然現象のようなもの”と人々には捉えられていた。

普段その誰もその存在を気にも留めない、そういう類いのモノとして。


ただし、俺にとっての『アレ』は別物だ。

奇妙な形の宙を泳ぐ魚。


「━━━━そこか・・・!!」






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