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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女の長い一日 その4

私が探していた布地を扱うお店は、街の広場や大通りから少し外れた細い路地にあった。


骨董品アンティークみたいな木製の扉をそっと押すと、小さなベルがチリンと音を立てて客の来店を告げる。


「いらっしゃいませー・・・」


店員の声が間延びしているのは、私の後について店に入ってきたシグの姿を目にしたからだ。

この顔に免疫の無い若い娘さんには少々目の毒だもんね。


店内にチラホラとお客の姿も見えるけど全員が女性。

そりゃまあそうだよね。布地を買って縫い物をするのは女の人の仕事だっていうんだから。


そのお客さん達も、こっちをチラッと見て私の後ろに目をやった途端、皆一様に目許をあかくしてソワソワと挙動不審になった。

まぁ、しょうがないか・・・。



「うわぁー、種類があり過ぎて目移りする」


棚にずらりと並べられたたくさんの色や柄の布に、私の視線がフラフラとさ迷う。


もともと私は裁縫が趣味で一時期進路で真剣にに悩んだ経緯がある。

服飾系の専門学校に進んでその道を往くか、公務員試験を目標に地方の大学を目指すか。

結局は安定した将来を選んで大学入試に受かったものの、異世界こんなとこに落ちて今までの努力が全部水の泡になっちゃったんだけど。・・・どちくしょうめ。


「何を縫うんだ?」


「普段着と寝間着。あと肌着かな」


「ふーん」


「ついでにシグの分も縫うから、好みの色があるなら教えて」


「・・・色?は特に気にした事ぁねえな」


「デザインに希望があるなら聞くけど?」


「服なんざ着られりゃなんでも良い」


・・・駄目だ。これっぽっちも参考にならない。


「今まで着る物はどうしてたの?」


「うん?軍にいた頃は大抵軍の支給品で間に合ってたな」


「はぁ・・・。分かった適当になんとかする」


この顔で身形みなりに無頓着にも程がある。

いやでも、流行に敏感でお洒落なシグとか、何となく想像しててキモチワルイ。


自分の服はデザインがある程度固まってるから布選びも楽なんだけど、この人の場合どうすればいいのか・・・。

さて、と、素材としてのシグに改めてじっくり目を向ける。


体型は・・・とにかく背が高くて私より頭二つ分も大きい。百九十センチぐらいありそう。

だけどしっかり筋肉もついてるからひょろっとしたら感じはない。

それこそRPGゲームに登場するエルフの戦士のイメージ。

スラリと長い手足、おとがいの細い繊細な顔の輪郭。パーツのひとつひとつが絶妙なバランスで配置された左右対称の面。


これで口さえ開かなきゃ空前絶後の美貌だと手放しで誉めちぎってやってもいい。

口さえ開かなきゃ、だけど。


・・・ここはまず、定番の白シャツとスキニータイプのパンツスタイルかな。

デニムかキャンバスみたいな厚手の布地を探さないと。


「なあ、ついでにこれ買ってくれ」


「ん?」


つい考え込んでたらシグが小物売り場に置いてあった革紐を指で指した。


「何に使うの?」


「髪を括るのに丁度良さそうなんだ」


「・・・邪魔なら切っちゃえば?」


純白のさら艶髪とか女子なら垂涎もののアイテムだけど、ああもしょっちゅう野山を駆け回ってモジャモジャにもつれさせるなら、確かに鬱陶しくなるかもしれない。


「それがなぁ、どういうわけか切っても獣化して戻る度にこの長さに戻っちまうんだ」


「なんですと!?」


毛髪自動再生機能!?初耳だよ!!


取り敢えず紐だけ先にお金を払って購入したら、シグは自分で器用に手梳てぐしでさっと髪を整えて、後ろ頭の少し高めの位置で一つに括って満足気な笑みを浮かべている。


「・・・獣人てみんなそうなの?」


「さあな、能力には個体差があるんでな」


取り敢えず、薄毛に悩む世のお父さん達の目の前で、その能力を発揮するのは止めといた方がいいとだけは忠告しておこう。




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