乙女にチラリズム
すっかり陽が傾き照明用のキューブを点灯させる頃合いになって、濡れ髪に滴を滴らせた湯上がり姿のシグが居間に姿を見せた。
放っておくと無頓着に半裸で家の中を歩き回るシグに、シーツを加工した即席の浴衣を着せるようにしたのは私だけど、例によって目のやり場に困る事態が発生している。
「よぉ、飯はまだか?」
だからああぁ!真っ裸より服を着た方がやらしいって、ナンデダアァァァーーー!!
チラ見えする鎖骨とか襟元から覗くうなじのラインが無駄にエロエロ。
中身を知らなきゃハァハァ言って鼻血を噴くレベルでヤバい。
若返ってお肌ピチピチの美青年になった分、ビジュアル的は天元突破。
花街にでも放り込んだら老若男女相手を問わず虜にして、日常的に刃傷沙汰を引き起こしそうだ。
「・・・そうだ、吉原に売ろう!」
━━━主に私の心の平穏の為に。
このまま面食いの病が進行して私が人生を踏み外す前に、尊い犠牲となれシグルーン。
働きたくねぇとか抜かしてんなら、吉原行って太夫にでもなれ!!
「・・・どっか具合でも悪ぃのか、お前さん」
・・・・・はっ!
視界の暴力に一瞬理性のネジがぶっ飛んでた!
「あー・・うん、晩御飯ね。いま丁度イイ感じにお肉が焼けたとこだから、テーブルに着いて待ってて」
「・・・お、おう」
「おや、どうしたんだいハネズ。顔色が悪いじゃないか」
「いえ、ちょっとばかし脳で処理しきれないものを見ちゃって・・・」
二次元ならまだしも、現実にあれは刺激が強過ぎる。
過呼吸起こして死ぬかと思った。
シグは自分の顔が他人に及ぼす影響をよく解ってるから、こっちの反応を面白がって時々わざと絡んで来る事があるけど、そういうのは大抵余裕でスルー出来る。
だけど“素”の不意打ちだけは、あれだけはいつも避けきれず、被弾して魂に深いダメージを食らう。
━━━ダメよ華朱!男は顔じゃないのよ!
男は妻子を養う甲斐性が一番なんだからっ!!(←魂の叫び)
美人は三日で見慣れるって言うし、いちいち流れ弾に当たって悶絶してる場合じゃない。
これをクリアしない限り私に平穏な明日は絶対に訪れぬぅぅぅーーーーーっ。
・・・・・この日の晩餐は折角の猪料理をろくに味わう余裕も無いままに終わった。
「明日は皆で街に買い物に行かないかい?」
何故か食事中シグの様子を面白そうに眺めてたグウィネスさんが、食後のお茶のタイミングでふと明日の予定を切り出してきた。
「買い物、ですか?」
「あぁ?」
「ハネズもそろそろ街で自分の物を揃えたいだろ?転位陣の使い方も教えときたいしね。━━━ああ、資金の心配ならいらないよ。散々うちの家事やら仕事の手伝いを引き受けてくれてたんだから正当報酬さ。必要な品は全部買っちまいな」
「え・・・、いいんですか?」
「実を言うとあんたにヒントを貰った改良型のキューブがよく売れてねぇ。大儲けしたんだよ」
「私?何かしました?」
「あんたうちに来てすぐの頃は魔力操作が出来なくて、火種の扱いに四苦八苦してただろ?
『最初から強火とか弱火が設定されてればいいのにー』とか言ってさ。それ聞いて今まで使い手の加減次第だった部分を、魔力無しの人間にも扱い易いように出力調整の機能をつけたのさー」
「ああ、それは便利ですね!」
「それに、卸してる店が客から預かってる空のキューブにあんたの魔力を充填するなら、それは自分の小遣いにして構わないよ」
「ホントですか!?やったあ!」
「これからも思い付いた事があったらどんどん教えとくれ」
「はいっ!」
思いがけず役に立てたみたいでちょっと嬉しいかも。
街で買い物かぁー。初めてだから楽しみだな。
なんたって前回の街デビューはそれどころじゃなかったし・・・。
欲しい物も幾つかあるんだよね。
━━━と、そんな風にあれやこれやと夢を膨らませるのに忙しくて、この後大人二人が交わしてた会話なんてほとんど耳には入らなかった。
「グウィンよー、随分とそいつに甘ぇな?」
「甘やかしてるつもりは無いがね。可愛いじゃないか?こうも素直に慕われるとさ」
「大抵の奴は『殲滅』の名を聞けば尻捲って逃げるだろうからな」
「まったく失礼な話だよ。世間じゃまるであたしの通り名が魔王かナニかのように語られちまって」
「おめーにブッ殺されそうになった連中からすりゃ、当然の反応だわな。戦闘に駆り出されるたんびに戦場を更地に変えやがって」
「おや、心外だね!傭兵てのはただの道具だろ?あたしはいつでも求められた事を成したまでさ」
「そんで『やり過ぎだ』つって何度もお縄になりかけてりゃ世話ねーぜ」
「道具は使う側にこそ責任があるってもんさ」
「物は言い様だな、オイ・・・」
「あんたの方こそ、ハネズには大分気を許してるじゃないか。女相手に取り繕ったあの薄っ気味の悪い笑顔を撒き散らさず、ほとんど素のまんまでさ」
「ありゃまだ“女”じゃねえ。小娘だ」
「ハッ!色気だけが女の目安ってかい?これだから白粉臭い女の相手ばっかしてる奴は。・・・まァいいさ、この子はいずれ似合いの相手を見つけて所帯を持つだろうからねえ。あんたは精々応援してやるがいいさ」
「・・・・・・お、おう」




