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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女は類友(とも)を呼ぶ

堂々と“働かない宣言”をしたシグは本格的にニートの仲間入りをするつもりらしく、あれから終日のらりくらりとダラけて過ごし、本っ当になんにもする気配が無い。


たまーにふらりと外に姿を消す事があっても、お茶の時間には頃合いを見計らったように戻って来るというような、そんな毎日が続いている。




「獲ったぞーーー!」


ある日の夕方。

表で大きな声がして様子を見に行くと、玄関先に自分の身体の倍はあろうかという“獲物”を肩に担いだシグがドヤ顔で立っていた。


服のあちこちに鉤裂かぎざきをこしらえ、どこを転がったのか頭の天辺から足の先まで汚れ放題。

しかも唯一の取り柄とも言うべき顔に擦り傷と青痣あおアザのオマケ付きで。


「・・・どこを徘徊してきたの、おじいちゃん」


「いやー山ん中で美味そうな猪見かけてなあ。急に肉が食いたくなって狩っちまったぜ」


そんな『近所のスーパーでお肉を買う』みたいなノリで、大物狩って来られても!


見たところシグは丸腰で何の装備も身に付けていない。

・・・多分獣化して狼にでもなったんだろう。


山刀クリスの一本でも持ってりゃよかったんだが、前にどっかへやっちまったんで取り敢えず手近にあったもん片っ端から投げ付けてやっとこさ仕留めたぜ。主に岩とか岩とか岩とかだな」


「野人か!!」


シグがついに人型で野生化し始めた!!


「早いとこ血抜きしねえと折角の肉が不味くなる。解体用の大包丁貸してくれ」


そう言われて私が台所から探してきた刃渡りの長い包丁を手渡すと、シグは見事な手捌きであっという間に猪をまるまる一頭解体してしまった。

お肉屋さんに就職できそうだ。


ほんの一月ぐらい前までの現代モヤシっ子の私だったら、この解体ショーを見ただけで目を回してたに違いないけど、シグとの旅で幾らか耐性はついてる。

流石に猪は初めてだけど、ウサギや鳥はシグがしょっちゅう獲ってきてたからね。


「よっしゃ、晩飯は肉だ肉!」


「━━━の前にシグはお風呂ね。その泥だらけの格好で家の中を歩き回ってたら、ウィネスさんの鉄拳が飛ぶわよ」


しかも解体作業でそこら中に返り血が跳んで中々にホラーな眺めだ。


「ったくあの女、ババァになっても手が速ぇのは相変わらずときてやがる」


・・・つまり、昔から殴られるような事ばっかりしてたと。

どうせいつもの空気読まない言動で散々顰蹙ひんしゅくを買いまくってたんだろう。

“読めない”じゃないところがイラッとくる最大のポイントだ。


「いいから早くお風呂に入ってきて。耳の後ろもちゃんと洗うのよ」


「おめーはお袋か!」


「こんなトウの立った息子、母さんお断りよ」


野人は大自然やまに還れ。






シグをお風呂場に追い立てた後は台所に直行。

まな板の上にドン!と乗った肉塊を前に思案に暮れる。


「猪かぁ・・・」


私的には未知の食材だけど、料理番組のジビエ特集で扱ってるのを見た事がある。

『歯応えのある肉質でややクセのある味』とかなんとか。


「臭みを消すなら香辛料スパイス香草ハーブだけど・・・どれが合うのかな」


調理台の脇に置かれた棚には二十種類以上もの調味料の容器がズラリと並べられているけど、生憎とまだ私は馴染みの薄い品が多い。

幸い砂糖や塩とかの基本的な調味料は、元の世界の物とそれほど大差ないからいいけど、香辛料や香草の類いとなると完全にお手上げだ。


「あああ・・・日本の味が恋しい」


味噌と醤油さえあれば大抵の食材は和風にアレンジ出来るのにぃ~~~。


・・・そう言えばグウィネスさんは『家事が苦手』と言ってたけど、『出来ない』とは言ってなかった。

ここはひとつ素直に師匠を頼るとしますか!




そして、私がおそるおそる願い出た『料理教室』に、グウィネスさんは意外にもノリノリで応えてくれた。


「猪なんかの大きな獣の肉は熟成させると旨味が増すんだよ。残りの部位はどうしたんだい?」


「骨付きの状態で地下の貯蔵庫に入れときました」


運び込んだのはシグだけど。


「よーしよし、上出来だ」


母屋に隣接した食糧庫の地下には常温保存に向かない食材を蓄えておくための貯蔵庫があって、グウィネスさんの魔術で室温が凍る一歩手前の温度に保たれている事を最近になって知った。


チルドルーム!?まんま冷蔵庫やん!あったんかい!!

━━━てな感じなんだけど、グウィネスさんはコレを一般に普及させる気はないらしい。

「消費する魔力が多いから一般家庭で維持するのは無理だろうねぇ」だそうな。


貴族とかのいわゆる“お金持ち”の家ならあるいは可能かも知れないけど、中産階級の家庭でさえ夏場に氷室から切り出した氷を使うのも物凄い贅沢で、グウィネスさんちの貯蔵庫は家主が魔術師ならではの恩恵ということらしい。



「煮込み料理は手間がかかるから今回は炙りにするよ」


「はい、お師匠様」


「まず砕いた岩塩とピリカを全体にまぶして」


「はい、お師匠様」


「次はこの金串を真ん中に突き刺す」


「はい?お師匠様?」


「それから暖炉の火力を調節して自在鉤に金串ごと肉を吊るしたら━━━━」


「し、師匠・・・?」


「後はひたすら焦げないように回転させる!以上!」


「ワイルド!!」


調味料ほとんど関係ナシ!ほぼ野戦料理!!

これはあれか、焼けた端からナイフで削いで食べるやつ。

確か“シュラスコ”とかなんとか・・・。


「料理も薬品の調合と同じようなもんだし、一時期凝ってた時もあるんだけど、独り暮らしだとついついどうでも良くなってねぇ」


「ウィネスさん・・・『やれば出来るのにやらない人』の典型ですね」


あのたくさんの調味料はそういう事だったのか・・・。


「じゃあ、これからも料理は私が担当するので、香辛料や香草の使い方をちょっとずつ教えて下さい」


「おやまあ!働き者の弟子だよ、あんたは」


イエイエ。これからの生活がかかってるので。



━━━でもこう言っちゃなんですけど。

シグルーンとグウィネスさんて、もしかしなくても“類友”?






























































































































































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