乙女 ミーツ ア ニート
お師匠様が言うには、転移の魔術ってのは本来距離や方角とかの緻密な計算に基づいた術式が必須で、いつでもどこでもパッと消えて好き勝手な場所にポッと出られるようなものじゃないらしい。
しかも術の行使には微細ながら余波が伴うため、力のある魔法使いなら身近な魔力の揺らぎからそれを感じ取る事が出来るんだとか。
感知器並のビックリ能力だ。
「魔術の痕跡は無し、となると・・・偶発的な何か・・・いやいや、二度も同じような事例があるのは有り得ないだろ・・・・・うーん・・・解んないねぇ」
前に私とシグが“謎扉”を潜った際の状況をもう一度詳しく語り終えると、グウィネスさんはなにやら難しい顔で考え込んでしまった。
やっぱり本業に関わる事だと気になるらしい。
「あんた達が抜け出して来た牢みたいなとこはね、王城や後宮に王族専用の抜け道があるのと一緒で、いざという時の為の仕掛けが仕込まれててもおかしくはない場所なのさ。・・・だからあたしはてっきりあんた達が偶々そういうのに当たったんじゃないかと踏んでたんだけどねぇ」
・・・・・へーえ、なるほど。
そういう事だと思えばそう思えない事もないけど。でもそれだけじゃ説明がつかない事があるんだよねぇ。
「魔術師に何の魔力も知覚させず、目の前にいきなり出現するような器用な真似がこの男に出来るはずもなし・・・」
ウンウンと頭を捻りつつも、グウィネスさんはどこか愉しそうだ。
まるで難易度の高いパズルに頭を悩ませるみたいに、ああでもないこうでもないと色んな可能性を組み立ててみたり崩したり。
「おい、ネージュ。この女はこの状態になると長ぇぞ。まともに相手をしてるとこれで一日が終わる。構うこたねえからやる事があんならそっちを片付けちまえ」
「・・・うん、わかった」
この後私がいつも通り掃除洗濯を済ませ、朝食の仕度をととのえるまでグウィネスさんは思考に没頭したままだった。
朝食後いつものようにグウィネスさんが作業部屋にこもると、必然的に居間には私とシグの二人だけ。
シグは人型のまますっかり定位置になった長椅子の上で、まるで以前からの住人みたいな顔で悠々と寛いでいる。
「━━━シグはこれからどうするの?」
この際だから気になってた事を直球で訊いてみる。
居候するといったって、私と同じで一生ここに住んで居られるわけじゃないだろうし・・・。
「まーしばらくは休暇のつもりでダラダラ過ごすさ。こちとら三十年以上も馬車馬みてーに働かされたんだからな」
「何言ってんの身体が鈍るよ」
「そんじゃダラダラすんのに飽きたら自分探しの旅にでも出てみっか。腕っぷしにゃ多少自信があるが・・・若返ったついでに一から武者修行ってのも面白そうだ。世の中探せば俺より強ぇ奴はゴロゴロいるだろうしな」
・・・・・どうしよう。どっかの格ゲーの主人公みたいな事を言い出したんだけど。
「手っ取り早く資金稼ぎすんならまず賞金首を狙うのが早ぇか・・・いやいや首実験が面倒だな。『生死不問』ならまだしも『生け捕りのみ』だと役人に突き出すまでが手間だ。いっそのこと盗人の根城を潰してまるっとアガリをいただくか・・・」
「は?」
「━━━まず近場からだな。山沿いの街道にゃ盗人の集団が幾つも巣食ってるって話だし、取り敢えず片っ端から片付けっか。山賊なんざどのみち捕まりゃ極刑になるような連中しかいねえ。サクッと殺って金目の物だけ回収すりゃーなんとかイケる」
「それどんな悪党の所業!?」
そのうち『山賊王に俺はなる!』とか言い出すんじゃなかろうかこの男。
「私、シグがドコを目指してるのかサッパリ分かんないんどけど」
「世のため人のため?治安が良くなるついでに俺の懐も潤う、一石二鳥!」
「その心は」
「・・・働きたくねぇ」
━━━━━うわ・・・ダメな大人だ!!
「かったりーんだよ、俺ぁもう金輪際働かねえ。人に使われんのなんか真っ平御免だ。特に宮仕えなんざ最悪だぜ、毎日毎日毎日毎日くっだらねえ足の引っ張り合いばっかやりゃあがって━━━」
「や、その辺の事情はわりとどうでもいい」
「愚痴ぐらい聞けってー!仮にも父娘を名乗った仲だろー?」
「黙れニート」
なんという見た目詐欺!!
今までなんとなく熟年男子の魅力でカバーされてた部分が消え去ったら、ただの駄目な俺様にぃぃーーーーー!!
たとえ仮の役どころにしても、私はコレを断じて『父』とは認めぬ。




