乙女の萌えのツボ
「おやまあ、こりゃまた・・・上手い具合に解呪が進んだじゃないか!」
後から居間に現れたグウィネスさんは、すっかりただの不良の兄ィちゃんと化したシグを見て、ニヤニヤ笑いながら意味不明な言葉を発した。
「はあ”あ”ん?何の話だ。それより早くメシ━━━━」
だけど当の本人は現在の自分の状況をちっとも理解出来ていない様子で、食欲の方にばかり気を取られているときたものだ。
歯痒くなった私が有無を言わさず「鏡を見て来い」と風呂場を指で指すと、文句を言いながらも渋々向かった直後
「なんじゃこりゃあああーーーーー!!」
と、太陽に向かって吠える刑事のような雄叫びを上げて、ドタバタと居間に駆け戻ってきた。
「グウィン!おいてめえ、こりゃどーゆーこった!!」
・・・・・やっと気付いたみたいだ。
「どういう事も何も、昔掛けた術を解いただけさね」
「何ぃ!?」
━━━なんですと!?
「話は食事をしながらでも出来るだろ?ハネズ、悪いけどこいつに簡単なもので良いから何か用意してやっとくれ。二日も食いっぱぐれて流石に腹が空いてるだろうからね」
「あ、ハイ」
取り敢えず今朝は作り置きの野菜スープとマフィンで、それにオムレツでも添えて出しとこう。
それで、とシグが口を開いたのは、テーブルに並べられた朝食を一通り平らげた後の事だ。
「“昔掛けた術”ってのは何の事だ、魔女。おれにはトンと覚えがねえんだが」
訝しげな顔のシグが詰問するような口調で切り出した。
「やだねえこの年寄りは・・・、すっかり忘れちまってんのかい」
「だから、何をだ」
「あんた以前、その優男風の小綺麗な顔のせいで他の男共に舐められて面白くないとボヤいてたじゃないか。『早いとこ年嵩の渋い中年になりたい』ってね」
「・・・そんな事もあったかもしれんが、それとこれとどう関係があるってんだ」
「あんたさ、『混じり者』の血の中に竜人や森人が含まれてるだろ。遠い血筋にしろ、長命な種族との混血は寿命にかなり影響が出るんだよ。純人に囲まれて暮らすとなりゃ成長速度や老い方にモロに差が現れてかなり目立つ事になる━━━━てな話を前にしたらあんた、『人並みの老けか方すりゃ問題無ぇだろ』つって、あたしに偽装の魔術を掛けさせたじゃないか」
「・・・は・・・」
「寿命に直接手を加えるのは禁忌だし、若返りや不老の術は代償が高くつくけど、『若く見えるようにするだけ』や『老けて見えるようにするだけ』ならさしてさして難しくはないからねぇ」
「ちょっ・・・待て、あれは酒の席の戯れ言でただの冗談━━━━・・・じゃ、なかった・・・ってのか」
「なんだいシグルーン、あたしが言った事まるっきり信用してなかったのかい。あんたがいずれ傭兵稼業から足を洗って仕官するって言うから、餞別代わりに純人の国で生き易い身体にしてやったってのに」
「━━━━━━━・・・っ」
思ってもみなかった事実に、どうやら二の句が継げない様子のシグルーン。
「つまりシグは━━━━」
「現在のその姿が本来の姿だって事さ」
グウィネスさんの向かい側に座ったまま唖然とした顔になる元・お爺様。
『術』が解けて二十歳前後の姿に戻った今、その性格以外は非の付け所がない美貌の青年だ。
すらりとした細マッチョのお爺様だったシグは、三・四十も若返って今や白皙の貴公子といった風情すら醸し出している。
━━━━とんでもない詐欺だ。
これで最初に出会った頃の軍服を着せたら・・・とウッカリ想像して鼻血を噴きそうになったのは、乙女の秘密として墓場まで持って行く事にする。




