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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女、第一異世界人と遭遇

結論から言うと、『死体の人』は死んでなかった。


「おい、娘。・・・お前何者だ。さっき何処から現れた?新手の転移術か。大方俺を殺りに来たんだろうが、誰の手の者だ。冥土の土産に教えてくれや。どうせ死人に口無しなんだから構わんだろう」


何処の世界にこんだけ喋る死人がいるよ。

・・・あれ?でも私も死んでるんだから、お互い『死人』で合ってるのか。


「何処からって言われても・・・、現世から?いっぺん死んであの世に来た訳だし・・・」


「・・・はあぁ?」


「だって此処ここは死んだ人間が来る所でしょ?」


「・・・・・・・いや、まぁ。似たようなもんだが」


「もしかしてここ地獄なの。地獄で磔にされてる人ってどんな極悪人?何やってそんな虫の標本みたいに壁に吊るされてるの」


相手が自分に危害を加えられない状態だって分かってるからこそ言える台詞だ。

それに例えどんな極悪人だとしても、こんな状況じゃ誰もいないよりはいい。


「そりゃあ俺は傭兵上がりの軍人だし、地獄行きは確実だがな・・・」


「軍人て、どこの国の?」


「・・・ローエングラムだ」


「は?ドコそれ、地球のどのへん?」


「・・・は?」


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


何だか話が怪しくなってきた。


「・・・ちなみに私はアジアの端っこにある『日本』て国の生まれなんだけど。フジヤマ、キョート、アキハバラが有名で国民の何割かがオタクという病に侵されている国よ。そのうちの更に何割かは『中二病』という重症者。しかも生きながらにして脳がただれる『腐女子』という恐ろしい不治の病を患う人もいるという」


「未知の世界だな」


「・・・・・左様デスカ」




やっちまった感が半端ない。

これはアレか。『知らない天井だ』というやつか!

どこの神の仕業だ!出てこい神!!

そして今から詳しい説明を!ギフトをくれる気があるならもれなく受け取るからーーーーー!!


・・・・・もう一度結論を言おう。


何も起こらなかった。



私はカミサマの特典無しで異世界しらないばしょにドボンした。








この上更にこの世の終わりを見たかのような気分を味わう事になろうとは━━━━━。


「なあ、おい」


心に深いダメージを負いガックリと四つん這いで項垂れる私に、『死体の人』がしつこく話し掛けてくる。


「お前さん、俺の鎖を解いてくれんか。ほれそこに、これ見よがしに鍵が投げ捨ててあるだろうが」


「例えここが地獄じゃなくても、鎖に繋がれるような極悪人を野放しにはデキマセン。襲われたらヤだから」


「誰が極悪人だ!お前さんみたいな乳臭い小娘襲いやせんわ!」


「一生そこで鎖に繋がれてれば」


「ちっ・・・」


・・・万に一つ、いやさ億に一つの勘違いで、地球上にローエングラムという国があるという可能性も・・・・・無いか。

壮大なドッキリだとかの方がまだしもだ。

おまけに最初に何て言った?“転移術”がどうとかこうとか。

あんな中二臭い単語を真顔で口に出来る人間、アチラ側にはそうそういない。


つまり“それ”が実在するモノで、実際に使われているから、自然に出た言葉だとしたら。


・・・・・確実に『此処ここ』は元居た世界ばしょじゃない。


そしてココが一番肝心なんだけど、私は『生きてる』のか『死んでる』のか。

『死んでる』ならいまの状況だって『死後の世界』で片付くけど、『生きてる』んだとしたらこの、真っ暗で出入口の無い洞窟みたいな空間は『何』なんだろう。


「・・・ねえ、ここ何処・・・ううん、この場所って・・・『何』なの?」


意を決して改まって問いかけたら、薄暗くて見えはしなかったけど『死体の人』から軽く驚いたような気配が伝わってきた。


「お前さん・・・まさか、何も知らないでこんなとこに来たのか・・・牢獄だぞ。しかもここは、殺すにゃ殺せんが社会的には抹殺したい人間を放り込む場所だ」


・・・・最悪・・・・。


「で、貴方は、その『こんなとこ』に何で放り込まれてんの」


「あー・・・アレだ。ちぃとばかり地位も身分もある相手の『男妾おとこめかけになれ』と言われて断ったらブチ込まれた」


・・・どんな理由だ!!


「お悔やみ申し上げます」


「殺すな」



結局私は『死体の人』をはりつけの状態から解放した。

投獄された理由があまりにも馬鹿馬鹿しかったのと、なんとなくだけどそこに嘘の臭いを感じなかったから。


私は直感で行動するタイプじゃないけど、初対面の印象というのは結構大事だと思っている。

何の先入観も無いまっさらな状態で相手を見れるのは、たった一度きりしかない。

それが取り繕った偽りの姿だとしても、その姿を見て相手を信用するかしないかは自分次第だ。


自分に不利な状況にも拘わらず、私を脅すでもなく、媚びるでもなく、飄々とした態度を崩さないその男はなんとなく━━━━本当になんとなくだけど、自らの矜持にそぐわない行為は絶対にしない種類の人間に思えた。


それこそ、例え鎖に繋がれて人知れず野垂れ死にする事になったとしても、だ。



「いやー助かったわ。そろそろ手首がしんどかったんでな。で、お前さん名は?別に偽名でも渾名でも構わんが呼び掛けるのに不便なんで、適当に教えてくれや」


吐き出す台詞が実にチャラい。


暗くて顔の中身はまではよく見えないけど、この感じだと顔が自慢の優男系ちょい悪オヤジに違いない。

元傭兵で軍人?だったっけ?

160センチ弱の私が見上げるほど背丈が大きくて、細身ながらしっかりと鍛えられた身体をしてる。

ふーん、ナルホドね・・・。


「冬木華朱・・・“華朱はねず”が名前」


「ふゆ、は?ねーじゅ?・・・妙な名前負けだな。俺はシグルーンだ」


「言い難いなら好きに呼べば?」


「んじゃ、“ネージュ”で」


「それでいいよ。貴方はシグ?」


「おう」




そんなこんなで未だに牢獄の中に囚われたままの私だけど、取り敢えず“独りぼっち”からは解放されたらしい。












































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