乙女に代わってお仕置きよっ☆
三十ウン年振りで再会した旧友同士の間で、まだしばらく情報交換が続きそうな様子だったため、情報過多で脳がパンク寸前の私は一旦居間を出て庭にいるお母さんとチビちゃんの元へ向かった。
『 ねぇね きたー! 』
転がるようにして駆け寄ってきた白い毛玉を抱き上げ、まずは頬擦り━━━からの、もふもふもふもふ・・・・・・。
「あーこの手触り。たまんな~い」
ついでにお母さんのゴージャスなタテガミにもハグ。
お返しにベロリと顔を舐められた。・・・おおぅ。
チビちゃんの風切り羽が生え変わるにはまだ時間がかかりそうだけど、もともと天狼の雛は母親と過ごす期間がとても長いそうだから、焦らなくても秋頃には新しく生え揃った羽でお母さんと空を飛ぶ練習が出来るみたいだ。
『 むすめ けもの におう 』
「え?あ、そっか。さっき山猫シグに触ったから・・・」
流石に野生の獣の鼻は鋭い。
「あのね、お母さん。今、ウィネスさん家に以前私の連れだった人が来てるの」
前回出会い頭にシグがお母さんに前肢でプチっとされてた事を思い出し、一応フォローに回ってみる。
━━━敵じゃナイヨ?みたいな?
「悪い人じゃないから、潰さないでね?」
『 わかった 』
よし、こっちは取り敢えずこれで一安心。
*
「━━━戦場以外の場所で手前ぇに会う事があるとはな」
傭兵時代この女と顔を合わせるのは、決まって最前線に駆り出される時ばかりだった。
グウィンは気紛れで従順とは言い難く、雇う側からすればごく使い勝手の悪い傭兵だったに違いないが、その戦闘力の高さだけに注目するなら当代随一と呼んで差し支えのない実力だった。
どちらかというと表沙汰にはされない類いの戦場で、毎回好き勝手に暴れるだけ暴れまわっていたが、ある時ふっつりと消息が途絶えてそれっきり。
当時から年齢不詳で誰もこの女の確かな素性を知る者がいなかったせいかあっさり死亡説が定着し、またそれを疑う者もいなかった ━━━━━━━━━ んだが。
「マジで生きてやがる・・・」
「あんたの方の噂話はよぉく耳にしてたよ、将軍様。醜聞好きに身分の上下は関係ないからからねえ。おエライ雲の上の貴婦人達が元は卑しい平民上がりの武人に入れ揚げて、あっちこっちで愉しい話題を提供してくれてたからねぇー」
「チッ」
「いやはや!あたしゃあんたがあんなに勤勉な努力家だとは全く知らなかったさ~。前日までどっかの大臣の未亡人の相手をしてたと思ったら、翌日には別の有力貴族の嫁かず後家を口説き始めて、最終的に女王の愛人の一人に収まっちゃってんだからね。いやー、顔が良いってのは便利だねぇ」
「ったりめーだ。売れるもん売らねぇでどうすんだ。相手はこの顔と身体で散々愉しんだんだから、持ちつ持たれつってやつだろが」
「おや、清々しいね」
「実際一国の頂上付近まで登り詰めたところで、やってたこたぁ底辺の男娼と似たようなもんだぜ」
だがそれでも、幾ばくかの目標は達成出来た。
━━━━━それでいい。
「もう気は済んだんだね?」
「・・・後は若ぇの働かしときゃいーんだよ。俺ゃもうこれ以上働かねえぞ。今後は悠々自適な老後を送ってやる」
「ふふん、無一文どころか素っ裸で何言ってんだろねこのジジィは」
「う”っ・・・」
「まぁ精々あの娘に捨てられないように頑張るんだねぇ」
「━━━はああ?なに言ってやがんだこのババァは」
「気に入ってんだろ?可愛がられちゃってんだろ?獣姿を晒したあんたがあれだけ素直にモフられてたんだしねぇー。多少の年の差なんてあたしの奥の手でどうとでもしてやるよ。ただ・・・今までのあんたの女の好みからするとちょっと淋しい部分があるのはどうしようもないがねぇ━━━━」
「おいクソババァ、その口閉じろ」
あれは猫の仔拾ったのと同じようなもんだ。
ちょっと目を離すとすぐ死にかける、手のかかる飼い猫。
チビで細っこくて片手で担ぎ上げられるぐらいに軽くて、おまけに弱っちい。
━━━己の身を守る爪も牙も何一つ持たない娘。
「あれのドコを見たらそういう対象になるってんだ!絶壁の小娘じゃねえか━━━━」
『ガタン』
居間の入り口付近で何かに躓いたような音が響いた。
後ろからジワリと嫌な空気が滲み出して振り向くと、そこには━━━━未だかつて自分に向けられた事が無い種類の、蔑みきった眼の色を湛えた娘が立っている。
「ネー・・・」
「 死ね 」
そしてこの翌日から俺は天狼親子から目の敵にされ、事ある毎に噛り付かれるようになった。
「ギャハハハハハハハ!!ひっひっひっ、、、━━━━━ぐぇゴフッ!ざまぁ無いね色男、良い気味だ」
クソババァ・・・・・狙いやがったな・・・・・。
「お母さん、チビちゃん。内臓がハミ出さない程度に噛っていいよ」




