乙女は猫派
視点の変更あり
「・・・・・さて、これからどうすっかな」
人目が無いとはいえ何処とも知れぬ山ん中で、一糸纏わぬ素っ裸のままってのは色々と具合が悪過ぎる。
獣姿になりゃ気にはならねえが、やっとこさ暴走が収まったばかりだってのに獣化するのは気が進まねえ。
元の装備品(服)は背中に紐で括り付けてたんだが、記憶と一緒にどっかへ跳んでっちまって行方が分からねえ。
━━━━━と。
ウンウン唸りながらあれこれ考えていたら、妙に騒がしい気配が近付いて来やがった。
「━━━オイオイ!なんだってこんな山の中に丸裸のジジィがいやがんだ!?」
「何ぃ!?・・・ブハハハッ!!マジか、本当にマッパじゃねえか!」
「大方山賊にでも身ぐるみ剥がされたんだろうよ。そんな小汚ない年寄りなんざ放っておけ。早いとこ罠を仕掛けて山を降りるぞ。モタモタしてて魔獣でも寄って来たら厄介だ」
ガヤガヤと喧しい声で喋りながら近付いて来たのは、一見して猟師に見える風体の数人組で、弩や投擲に用いる細槍といった武器に加え、鎖で編まれた網やらトラバサミのような罠の類いを肩に担いだ男達だった。
「・・━━━━密猟者か」
この柄の悪さとくりゃあ、まず真っ当な猟師じゃねえだろ。
現に俺が小声でボソッと落とした台詞に、きっちり反応を示しやがった。
「クソジジィ、余計な詮索しなけりゃそのまま放っといてやったのによォ・・・」
・・・ヤっていいよな?構わねーよな?
よく見りゃ俺と似たような体格の奴も居るじゃねえか。
テメーら取り敢えず、俺にその服寄越せ。
「よーし、お前ら!全員脱げ!ついでに有り金も全部出せ」
全員地べたに這いつくばらせ、相手の戦意が喪失したところで早速本題に取りかかる。
一人だけいつまでも反抗的な態度を崩さなかった奴がいたんで、肩の関節を引っこ抜いて転がしたら、他の連中も大人しくなった。
「・・・っ、そこまでするか、クソジジィ!」
「あ”あ”ん?いたいけな年寄りを問答無用でブッ殺しにかかってきた奴等に、どんな情けが必要だってんだ?命があるだけマシだと思え」
「ぐっ・・・」
「寝言抜かしてんじゃねーぞ、ゴルァ!!言われた事にゃキリキリ従え」
くっそ・・・、野郎の着てた服なんざ気持ち悪くてしょうがねえが、この際贅沢なんか言ってらんねえ。
真っ先に体格の似た奴からズボンを剥ぎ取って身に着けた。
それから長靴に上着と順番に巻き上げて、シャツに袖を通そうとしたところで、━━━━━周囲に異変が生じた。
「出て来いヤああぁ!シグルーーーーン!!」
妙に聞き慣れた声がしたと思ったら、目の前景色が歪んで扉一枚分の空間が切り取られ、そこに全く別の風景が映し出された。
そしてそこに見えたのは。
「・・・ネージュ・・・?」
もうとっくに、なくしたとばかり思っていた。
我を忘れて歩み寄り、あともう少しで手が触れるという寸前のところまで来て、眉間の辺りに思わぬ衝撃を受けて身体がよろめいた。
顔を上げて更に驚いたのは、こっちもとっくに死んだとばかり思っていた人間の顔が、もう一つそこにあった事だ。
*
「あれ?シグどこに行ったんですか?お風呂上がったんですよね?」
お母さんからの情報で近くの山中にいるらしいと分かったシグルーンが、何故か突如としてグウィネスさん宅の居間に現れた、あの後。
薄汚れた半裸の闖入者は家主によって問答無用で風呂場に連行されて行った。
グウィネスさんにはワケの分からない奇怪な現象より、家の中を汚される事の方が大問題だったみたいだ。
ちなみにこの家には立派な浴室があって、水のキューブで浴槽に水を張り焚き口に火のキューブを用いる事で、いつでも快適な入浴が楽しめるようになっている。
・・・私は初めて浴室を見た瞬間、本気で泣いて喜んだ。
━━━心の底から咽び泣いた。
最初の七日間は埃まみれで草の海をさ迷い、次の七日間は山の天辺で洞窟生活。
唯一人間の文化に触れたトレンカの宿でも、手桶の湯で手拭いを絞って身体を拭いただけ。
それは風呂好き民族の代表格とも言うべき日本人にとって、想像を絶する痛手だったとだけ言っておこう。
「あの若造なら━━━━」
私の問い掛けにグウィネスさんがクイと顎で示した場所は、ダイニングテーブルから離れた位置に置かれた壁際の長椅子。
だけどそこには見慣れない豹柄の敷物が無造作に丸めて置いてあるだけで、誰も座っていない。
するとその時、毛皮がムクリと動いた。
「え」
白地に薄いグレーの豹柄、大っきな耳からピョコンと飛び出した耳毛、長ーい尻尾、翡翠の眼。
もっふもっふのロングコートに、プニプニの肉球・・・!
こ・・・これはっ!!
「ヤマネコぉおぉぉーーーーーっ!!」
私は興奮し過ぎてあやうく茶器の乗ったトレイを引っくり返しそうになった。
ええええ、これがシグルーン!?
そういえば以前山猫の姿にもなれると言ってたような・・・。
「風呂のついでに着てた服も洗うように言ったのさ。この家には男物の着替えなんかありゃしないし、たとえ裸でもこの姿なら問題無しだからねぇ」
いえ、むしろずっとこのままで良いです。




