乙女よ大志を抱け
私がグウィネスさんの家に居候するようになって、もう十日程が経った。
今ではすっかり生活のリズムが出来上がっていて、いかに効率よく家事を回すかが最近の私の課題になっている。
そして数日前から何故かそこにグウィネス先生による『お勉強』の時間が付け加えられるようになった。
━━━正確にはあの“魔道具談義”の翌日から。
取り敢えず簡単な読み書きからと言われ、教本を手渡された段階で私は物凄く今更な事に気付いた。
「━━━━これ・・・何語???」
ものすごーーーく、今更なんだけど!
・・・そういえば私、こっちに来てから言葉で苦労した事無かった。
もしやこれが噂の“ギフト”!?
違和感無さ過ぎて全然わかんなかったし!!
と、一瞬チート的なものを期待しちゃったりもしたんだけども。
文字を習い始めたら、実はこっちの言葉がまるっきり日本語の発音と同じだという事実が判明。
・・・・・・・・訳がわからない。
ちなみに、北欧の“ルーン”に似た表音文字をローマ字読みの要領で組み合わせて使うやり方は、日本人の私にはとても覚え易かった。
「あんたの知識はどうも偏り過ぎてるからねぇ・・・。おそろしく専門的な事を口にするかと思えば、五歳の子供でも知ってるような事を知らなかったりと随分チグハグだ。素性を詮索するつもりは無いけど、そのままじゃこの先困る事も多いだろうから、面倒でも生活するのに困らない程度の知識は身に付けておいた方がいいよ」
「・・・・・女神様!!」
「はあ?」
私は感激のあまりグウィネスさんを伏し拝みたくなった。
どこかの顔だけのお爺様にこの人の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
無理に押し付けられたも同然の得体の知れない小娘に、寝床と食事を与えてくれただけでなく、将来の心配までしてくれるなんて。
なんて良い人・・・!惚れる!!
「おかしな娘だねぇ・・・泣くこたないじゃないか」
「う”え”ぇ~~~」
だって、嬉しかったんだよ。
『この先』って言葉で、私はこの世界に居ても良いんだって、初めてそう言ってもらえたような気がしたから。
「あんたは面白い娘だよ。きちんと基礎を身に付けたらあたしが弟子に取りたいぐらいさ」
「・・・魔道具作りの、ですか!?」
「あんたこの間あたしと話をした時、『力を放出するんじゃなくて吸収するやつはないのか』とか『キューブに熱そのものを閉じ込める事はできないのか』とか聞いただろ?あれは目からウロコの発想だったよ!」
「はぁ・・・」
単に洗濯物を乾かすのに除湿器的なやつとか、食材を保存するのに冷蔵庫的な役目をするやつがあればいいのにと思っただけなんだけども。
「『魔力』自体は誰でも持ってるものだけど、それを『魔法』という形で発現させられる人間は極めて少ないんだよ。適性ってもんがあるのさ。その『魔力』をより効率的に引き出すために呪文や魔方陣なんかの術式を加えたものを『魔術』と呼ぶんだけど、あたしのアレは魔力の少ない一般人でも生活に活かせる道具として作ったんだよ。便利だろ?」
「はい、それはもう!」
「使い捨てじゃないから価格も高めなのに結構売れててねぇ、生産が追い付かないんだよ」
「あー、かなり画期的な発明ですもんね」
「━━━━てことで、あんたあたしから魔術を習う気はないかい?」
「はいぃ??・・・でっ、でも、適性とか必要なんですよね?」
「まぁ、そこらへんの見極めはきちんとするから、どうだい?まずはお試しって感じで!いずれにしろ手に職をつけるのは悪くないだろ?」
・・・・・悪くない、どころか、完全に渡りに舟のご提案!!
「ふ・・・ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
「アハハハ、なんだいあんた、嫁にでも来たみたいじゃないか」
グウィネスさんが男の人だったなら、喜んで押し掛け女房してますとも。
稼ぎがあって頼れる男!なんて素敵な響き・・・!!
・・・でもまぁ、取り敢えず自分の足で立ってみないとね。
まずは自立した女性を目指す方針で!
旦那で苦労した母親を見て育てば、そこらへんはシビアにもなろうというもの。
夫婦揃ったあったかい家庭が夢だけど、いざという時自分で家族を養うための力はあった方がいい。
私をここまで育ててくれたのは、間違いなくお母さんだから。
ある日ふら~っと出て行って、それきり帰って来やがらない父親なんかじゃあ、絶対にない。




