乙女、不思議発見!
サブタイトルにあまり意味はありません。
正午過ぎになってお茶請けの作りおきをしようと思い立ち、台所のクッキングストーブに火を入れようとしたところで、キューブが魔力切れを起こしている事に気付いた。
『点火』を唱えてもウンともスンとも言わなくなってしまったのだ。
「うわぁ・・・このタイミングでー?・・・予備が無いかウィネスさんに訊いてみなくちゃ」
材料を揃えてきっちり計量も済ませ、いざオーブンの余熱を始めようとしたところで発覚した事態に、私は慌ててキューブを掴んでウィネスさんの居る作業部屋に足を向けた。
「ウィネスさーん、お仕事中すみません。キューブが魔力切れしちゃいましたー」
扉を控え目に叩いて呼び掛けると、いくらも待たずにウィネスさんは奥から姿を現した。
「どれどれ」
「予備があればお借りしたいんですけど。・・・オーブンを使いたくて」
「あぁ、そういえば菓子作りをするとか言ってたね。空になったやつをこっちに寄越してごらん」
「あ、はい」
素直に現物を手渡すとグウィネスさんはキューブを指で摘まみ上げ、ためつすがめつしながら何かを確かめるような仕草を繰り返す。
「おや、本当にすっからかんだ。予備はなくもないけどあれは卸すやつだから、取り敢えずこっちを充填しとこうかね」
「はい??」
「ちょいちょいっと━━━━━・・ほら、終わり」
「あ、ハイ。え!?」
差し出された品を反射的に受け取ったものの、あまりの呆気なさに理解が追い付かない。
「・・・これで、魔力が充填されてるんですか?ウィネスさん魔力持ちだったんですか・・・」
「ていうか、それの製作者あたしだからね」
「はぁ!?」
驚きの新事実。
「ほらほら」と手招きされて室内に目を向けると、まだ成形前の石材の塊や切り分けられたばかりの立方体が棚や机にところ狭しと並べられ、彫刻刀に似た道具が使いかけで卓上に転がされているのが目に入る。
俄然興味がムクムクと沸き上がってきたところで、「作業の途中だから詳しい話は後で」とお預けをくらった私は、お茶の時間にじっくり話を聞くために台所に戻って大量の菓子を焼き上げる事に専念した。
「これはまた・・・すごい量だね」
居間兼食堂のテーブルに、大皿でドン!と積まれた焼き菓子のタワーを見て目を丸くするグウィネスさん。
「大丈夫です。ほとんど日持ちするやつばっかりですから。でもホットビスケットは焼き立てが一番なので、取り敢えずこちらをどーぞ」
黄金色に焼けた熱々のビスケットに塩気の強いクリームチーズとジャムやハチミツを添え、ミント系のすっきりしたハーブティーを淹れて差し出すと、グウィネスさんは嬉しそうにすぐにそれを頬張った。
作ったものを美味しそうに食べて貰えるのは、とっても幸せだ。
「うん!美味しい。あんた良い料理人になれるよハネズ」
「かなり材料を消費しちゃいました・・・。すみません」
「構わないよ。近いうちに買い足すからね」
ブランチに近い朝食の後、正午頃に一度お茶を飲み、午後三時から四時の辺りでまたお茶。
まるでイギリス人みたいにティータイムが多い。
もっともお茶はハーブティーで、いわゆる『茶の木』から作られた紅茶や緑茶では無いんだけど。
まあ多少の違いはあるにしても、こちらの食材が元の世界の品とそれほどかけ離れていなくて助かった。
たまに驚くようなのもあるけど、それはそれで面白い。
「それでさっきのお話なんですけど・・・」
「あたしは元々魔道具作りが趣味なのさ。趣味が高じて仕事になった感じかね」
「ほうほう。・・・ところで素朴な疑問なんですけど、魔道具って魔力持ちの人にしか作れないものなんですか?」
「“作るだけ”なら技術さえあれば作れない事もないんだけどね。最終的に完成品に魔力を通して、正しく作動するかどうかの確認が出来ないだろ?いちいち他人に確認させるとなると面倒じゃないか」
「あー、それもそうですね」
「ただし『キューブ』に関して言うなら、魔力持ちじゃなけりゃ無理だよ。加工の段階で魔力を使うからね」
「━━━そうなんですか?」
とまあ、しばらくこんな感じで会話は続いた。
グウィネスさんは意外にもお喋り好きというか、どうやら趣味について語らせたら止まらないタイプのお人だったらしい。
尚、会話が終わる頃にはアラ不思議、焼き菓子タワーの高さが半分に減ってました。
・・・カロリーよ、何処に消えた。




