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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女のスローじゃないライフ

そもそも私が死にかけたのは高山病と栄養失調が主な原因だったらしく、山を降りて普通の暮らしを始めたらものの数日で体調がほぼ元通りになった。


でも、それもこれも全部“友人”に頼まれたからというだけで、縁もゆかりも無い私の世話を買って出てくれたグウィネスさんのお陰。

『ありがとう』なんて一言じゃあ到底言い表せないぐらい感謝してる。


だけどそれを口にするとグウィネスさんは決まって、「あたしはただの物好きさ」と茶目っ気たっぷりに笑う。

生粋の姐御肌というか、実に頼もしいお人なのだ。


でもだからってこれ以上、のほほんと他人様の厚意に甘えてるわけにもいかないじゃない?

居候なら居候なりに何かできる事をしたいと思うわけよ。





「ウィネスさぁん、居間リビング台所キッチンのお掃除終わりましたー。あ、洗濯する物があったらこのカゴの中に入れといて下さいね。あとお茶請けのリクエストがあったらお聞きしますよー」


「・・・ハネズ、あんた病み上がりなんだから、何も朝かそんなに動き回らなくたっていいんだよ」


「いえ!そういう訳にもいきません。身体が鈍りますから」


「でもねぇ・・・」


「へっちゃらですって。家事は慣れっこなんでこのくらいさせて下さいよ」


「そうかい?あたしはそっちの方面が苦手なんで助かるけどねぇ」


私は体力が回復して動けるようになるとまず最初に、グウィネスさんに一通り家の中の事を教わった。

水回りの使用方法から始まって、カマドの火の着け方やその他の細々とした注意事項なんかについてだ。


『脱・無駄飯食らい』を目標に掲げる私としては、家事手伝いがまぁ一番無難なお役目なんじゃないかという結論に達したというか、そのくらいしか思い付かなかったんだけど・・・。


取り敢えず今後は自分にできる範囲で家事全般のお手伝いをする事にした。


今までシグと旅をして知り得た範囲の知識だと、こっちの一般家庭での家事は人力が基本で、水を使う場合は川や井戸でまず水汲み、火は火打ち石みたいな物で火種を熾こすところから始めなきゃならない。正直言えばかなりの重労働だと思う。


当然それを覚悟の上でのぞんだんだけども、なんとウィネスさんのお宅には現代日本人もビックリの便利グッズが存在したのだ。


『充填式魔力変換装置』とかいう長ったらしい名前が正式名称だそうなんだけど、私はこれを『キューブ』と呼んでいる。


見た目はまんまてのひらサイズの立方体で、一辺が四、五センチ程。魔力がこめられた石材に象形文字のようなものが刻まれてて、スイッチとなる単語を唱える、もしくは軽く魔力を流す事で起動して照明や火種の代わりになる一種の魔法道具マジックツールだ。


立方体キューブの側面に刻まれている文字の種類によっては魔力で水を生成する事もできるから、元の世界でガス水道電気で賄われていたライフラインをこれ一つで全てカバーしている事になる。

ガス管や発電機みたいに大掛かりな装置が要らない上に持ち運びが可能なので、使い勝手は抜群に良い。


ただし乾電池と同じで容器キューブにこめられた魔力を使い切ってしまえばそれまでなので、再度魔力を注入し直すまで使い物にならないのが難点らしい。


それはまぁともかくとして、一番の重労働になるはずだった薪割りや水汲みが必要無いという事で、家事がうんと楽になったのは確かだ。

特にグウィネスさんの家は野中の一軒家だから、こうした便利グッズは必需品なんだろうと思う。

独り暮らしで何もかも手作業でこなしてたら、家事だけで一日が終わりそうだもんね。


田舎暮らしが“スローライフ”だなんて、一体誰が言い出したんだか・・・。

分刻みで時計に終われる生活をしなくてもいい代わりに、朝から晩までほぼ肉体労働だってーの。


でも今の私にはこれくらいが丁度いい。

クタクタになるまで身体を動かして、余計な事を考える余裕も無いぐらい疲れて眠る。

そうすれば、いつかはこの胸のジクジクとした痛みも薄れてゆくだろうと思うから。



「━━━さぁ、働きますか!」




























































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