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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女と新たな出会い

暗い水底から急速に引き揚げられる感覚がして目を開けると、私は何故か知らない部屋に寝かされていた。


「・・・?・・・」


━━━━ここ、どこ?


頭が妙にフワフワしてて現実味が薄い。

夢、なのかな。


「おや、目が覚めたかい」


・・・誰か傍に居るの?


その声はすぐ近くで聴こえた。

視線で部屋の中を探したら、上から顔を覗き込まれてスラリと背の高い年配の女性の姿が目に入った。


「・・・あ・・・わ・・・」


「話すのは後にしてもう一眠りおしよ。まだ身体が怠いだろう。あんたの“親”があたしを呼ぶのがあとちょっと遅れてたら、危ないとこだったんだからねぇ」


「お、かーさ・・・」


「さ、これ飲んでもっぺん寝ちまいな」


「・・・?」


吸い口のある容器で差し出された飲み物にそろりと口をつけると、ほんのり甘酸っぱい葛湯みたいなやつだった。


「よしよし、ちゃんと飲んだね。後は何も考えないでよーくおやすみ。何も心配いらないよ」


色々聞きたい事もあるのに・・・眠くて起きてられない。

でも、そっか。

“お母さん”の知り合いなんだ。

━━━そう思ったらホッとして、また瞼が重くなった。







ぺろぺろ ぺろぺろ


『きゅうぅん・・・ ねぇね ねぇね』


ぺろぺろ ぺろぺろ


『おっきしてよぅ はねじゅー』



・・・顔。顔の辺りに馴染みのある感触が。

うぅ・・・、く、苦しっ~~~!

チビちゃん、ギブギブ━━━━━!!


「これ、坊!顔を舐めすぎだよ。呼吸いきくらいさしておやり、姉さん死んじまうだろ」


・・・っぷはあああぁーーーー!!


「・・・・・・チ・・・チビちゃん・・・起きたよ」


『ねぇね おっきした!!』


「いや、お前さんが起こしたんだろ・・・」


見知らぬ部屋での二度目の目覚めは、わりとスッキリ(?)訪れた。

頭にかかっていたモヤが晴れたとでもいうか・・・。

ずっと付きまとっていた身体の怠さや頭痛がきれいさっぱり治まって、ほぼ全快といった感じだ。


「ふぅん、顔色は大分良くなったね。後はきちんと食事を摂ってればすぐに元気になるさね」


「・・・助けて頂いてありがとうございました」


私は改めて命の恩人である女性と向き合った。

身体が萎えて立てないから、ベッドの上で精一杯いずまいを正す。

お礼はきちんと言わなきゃ。


「そうかしこまるこあたないよ。あんたの“親”はあたしの古い友人でね。頼まれれば何でもしてやりたいと思うぐらいには仲が良い」


「お友達・・・?」


一昨日おとといの夜、あれが半狂乱になってあたしのとこにやって来たんだよ。『娘が死んでしまう!助けてくれ』ってね」


「━━━━・・っ」


「大慌てで跳んでったら、大泣きしてるチビの傍であんたがすっかり冷たくなってるし。あたしゃこれはもう駄目かと思ったもんさ」


思ってたよりずっと大事おおごとになってた━━━━!!


『きゅん!しんぱいしたの!』


「ご・・・ごめんね、チビちゃん。それで、あの・・・お母さんは」


「窓の外をごらん」


そう言われて寝台ベッドの後ろ側━━━頭の位置にある小窓を見れば、お母さんが心配そうに窓に顔を寄せて中を覗き込んでいるのが見える。


「・・・傍に居てくれたの?」


「流石にあの図体じゃこの家に入れないからねぇ。窓のとこでずっと付き添ってたんだよ」


「っ、あ・・りがとう・・・、お母さん」


『 むすめ よくなる まつ 』


「・・・うん」


「後の事は任せとくれ。ちゃあんとあたしが責任持ってあんたの娘の面倒を見るからね。あんたはチビと普段通りにしておいで」


『了』


短い会話のやり取りが終わると、お母さんは何度も私の方を見て名残惜しそうにしながら、まだ飛べないチビちゃんを口に咥えて山の住処へと帰って行った。


「そんなにションボリしなさんな。同じ山の上と下に居るんだから毎日だって顔は見れるさ。天狼の翼なら一飛びだからね」


・・・私、そんなに分かり易いかな。


「さぁて、あんたには色々と訊きたい事があるけど、まずは名前からだね。あたしはグウィネス。呼び難いならグウィンでもウィネスでも好きに呼んどくれ」


「私は・・・華朱はねずです。冬木華朱」


「“ハネズ”?不思議な響きの名だね・・・ん?なんだい、そんなに目を丸くして」


「いえその、どうも人によってはこの名前って発音し辛いみたいで、ずっと適当な渾名で呼ばれてたので、ちゃんと呼ばれたのは随分久し振りで」


「ふぅん。そういやハネズは内陸じゃあんまり見ない顔立ちだね。黒髪黒瞳は東の多島海周辺の民族に多いけど、そういうのともちょっと違うようだし・・・」


「・・・・・」


「ま、あたしにとっちゃあ他人の氏素性なんざどうでもいい事さ!世捨て人も同然だからね」


そう言って、闊達かったつに笑ったグウィネスさんは、小さい子供にするみたいに私の頭をポンポンと撫でた。

・・・・あー・・これ多分、本気で子供だと思われてる。


「あの・・私、もうじき成人なんです」


「・・・なんだって?」


「私の故郷では二十歳が成人で・・・私、今十八です」


「━━━━━参考までに訊くけど、異種族の血を引いてたりとかは」


「しません」


トレンカの街では物凄く大柄な人や、物凄く小柄な人とかも見かけたから、そういう身体的特徴の種族もいるんだろう。

例えばゲームの世界で定番のドワーフやハーフリングみたいに。

実際にはまだお目にかかった事が無いけど。


「ここいらの国じゃ大概十五、六が成人だけどね・・・」


それでいけば私はとっくに成人してる事になるのか。


「この見た目が成人おとなに見えない事は分かってます。散々言われたので」


「そうかい・・・あんたは苦労しそうだねぇ」


この人はこの人で一体何歳なんだろう。

六十代くらいかなって感じだけど、背筋はピンと伸びてるし白髪も見当たらない。

セピア色の髪をキッチリ結い上げ、上品な細身の衣服ドレスを身に着けた姿は、上流階級の貴婦人だと言われても納得できる佇まいだ。


「とにかく、あんたの事はあたしが引き受けた。今後の身の振り方はこれからじっくり考えるとしようか」



新しい保護者は、なんだかとても頼りになりそうなお方だった。














































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