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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女は天国の扉を叩く

「ネージュ!!・・・・・あの馬鹿娘っ」


ある日突然現れた奇妙な娘は、いなくなるのもまた突然だった。


よりにもよって仔を奪われて怒り狂っている天狼の前に身を晒し、雛もろとも何処かへ連れ去られてしまった。


━━━何やってんだ、ド阿呆ーーー!!

普通に考えて一完の終わりじゃねえか!!


そもそもネージュと俺はえんゆかりも無い者同士、成り行きで行動を共にしていただけの間柄。

馴れ合いはこれまでと切り捨てれば済む話なんだろうが・・・それじゃあ寝覚めが悪ぃなんてもんじゃねえ。


あの状況で凶暴化した天狼に殺戮の限りを尽くされていた可能性を思えば、被害は最小限に抑えられたとも言えなくもないが、それですんなり納得できるかと言われりゃ、そら無理な話だ。


俺が今までどんだけあのひ弱な小娘の扱いに苦労してきたと思う。

ただ歩き回るだけで傷を負うような、想像を絶する弱っちい生き物だぞ?

日頃連れ歩くにもうっかり死なせないように細心の注意を払わなきゃならなかった。

俺の苦労を返せと言いたい。


「アッサリ持ってかれやがって・・・!」


俺は天狼の飛び去った西の空を今一度目で確かめる。

その真下には丁度当初の目的地である隣国へと繋がる街道が続いている。


・・・追い掛けたところでどうなる。

獲物として連れ去られたのなら、今の時点で既に命があるとは思えない。


そう思ったが、身体の方は自然と動いた。




━━━この日の夕刻。

陽が傾きかける頃合いにも拘わらず単身山に分け入る男の姿が、街道を下って街に向かう多くの旅人に目撃された。


裾野とはいえ魔獣の棲処すみかでもあるシトラス山に、陽が暮れてから足を踏み入れるのは無茶を通り越して無謀以外の何物でも無いのだが、男の足取りに迷いは無かったという。











「あああぁ・・・空気が薄い・・・」


━━━そして寒い。何故なら山の上だから。


私は今、数日前まで自分が地上から見上げていたその場所に居る。

・・・・・シトラス山脈の頂上付近に。



あの日天狼のお母さんにお持ち帰りされる途中で意識を失った私は、何故か天狼親子の巣穴でゴージャスな純白毛布にくるまれた状態で目を覚まし、毛布の正体がお母さんの毛皮だと気付いて再び気が遠退きかけるほど仰天した。


『むすめ ひえた しぬ よくない』


頭の中に直接響く片言でそう告げられて、どうやら自分が低体温症で死にかけてたらしいと気付かされた。

そして何故か、お母さんに体温を分け与えられて助かったという事も。


「・・・助けてくれたの?なんで・・・私、人間なのに・・・」


天狼のお母さんにとって人間は、我が子を奪った憎い生き物のはず。

なのにどうして。


それきりお母さんは何も言わなかったけど、その黄金色の眼はなんだかとても穏やかで。

見てたら何故か胸の奥が痛んで・・・ちょっと泣きたくなった。


それでも最初は非常食代わりに生かされてるのかとも思ったんだけど、何度か訊くうちに意外な事実が判明。


お母さんにとって我が子のチビちゃんが『坊や』なら、私は『娘』なんだって。

まさかの養子縁組!!

・・・いつの間にそんな事態になっていたのか、謎。


でもチビちゃんは可愛いし、お母さんは見惚れるほどの美獣だし、まぁいいか。


私の面食いの病が人間以外にも適用されると、明らかになった瞬間だ。

もっふもふは正義!


━━━で、しばらく休んで動き回れるようになってから、現在地を確認するつもりで出入口に向かったら、なんと、目の前に地面が無い。

天狼の巣が断崖絶壁の山の斜面(ほぼ垂直!)に造られてると知った私は、ここで再び目を回した。


下を向けば見事な雲海。上を向けば空の蒼一色・・・というか天国すぐそこ!!


目が覚めてからずっと身体の怠さや息苦しさを感じてたのは、緊張感や不安のせい以上に高山病が原因だったらしい。


うーん・・・。これからどうしよう。




ちょっと、じゃなくて、かなり途方に暮れた。












































































































































































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