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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女の惑い

大暴走スタンピードから数日経って、へろへろになったシグが山の家に帰宅した。


あの後エルモの町では、町中いたる所に転がっている獣の骸を巡って一騒動起こり、それを解決するのに少々時間が掛かったのだという。


生きて動いる時には手も足も出せない相手でも、死んで地面に寝転がっていればそれはただの『肉の塊』という事で━━━。

落雷で感電死した獣は、通常の狩りで仕留めた獲物より毛皮の傷みが少い上に、毒矢による肉の汚染を気にする必要がないので、町中の人間がこぞってフィーバータイムに突入。


老いも若きも刃物片手に大喜びで剥ぎ取りや解体に乗り出したまでは良かったんだけど、中には貴重な素材や肉がかなりの高値で流通しているブツもあって、自分で仕留めた獲物でもないのに所有権を巡る争いがそこら中で勃発して、町の住民同士の関係がギッスギスになったらしい。


最終的には狩人組合の組合長と町の運営のトップが話し合い、希少レア種の素材は“町の財産”として他所で売り捌いて、収益を今回の大暴走スタンピードで壊れた町の修繕費用に当てるという事で決着をつけ、住民達も『誰かに独り占めされるなら悔しいけど、それならまあ・・』と、納得したもよう。




「いくら冬で腐らねえつったって、いつまでも死骸をそのままにしておけばまた別の獣が寄って来ちまうからよ。連日“処理済み”の残骸を、穴掘っちゃ埋め穴掘っちゃ埋め━━━もうウンザリだ・・」


「お疲れ、シグ」


何事も事後処理には時間が掛かるって事か。


あの後何度かカワセミ亭のシグの部屋に行ってみたけど、いつ覗いても留守だったから、忙しいんだろうなとは思ってたけど、なるほどね。


「あとそれから、お前ガラハドの奴にバッチリ見られてっから、今後あの町に降りねー方が良いぞ」


「組長さん?」


「他の連中は天狼にビビりまくりで、状況を冷静に観察してた奴なんざ一人もいやしねぇだろうが、何かの弾みで誰かがお前の顔を思い出すかもしんねーだろ」


そうなった場合、自分の異能の件を伏せて辻褄合わせの話を捏造しなきゃならないから、物凄く面倒臭い。

あの町に特に深い思い入れはないから、二度と近寄らなければいいだけだ。


「わかった」


「俺も今回の一件で契約は切り上げた。わざわざ害獣駆除する必要もないほど獣の数が減った事だしな」


「あぁ〜・・て事は出稼ぎ終了なのね?」


「おう。誰がなんつっても当分働かねーぞ。思いっきりダラダラしてやる」


でた。シグの“働かない(ニート)”宣言。


だけどどうしてか、ちょっとだけそれを嬉しいと感じてる自分が怖い。

働かない男なんてもってのほかだと思ってたはずなのに。


何もしないで傍にいるだけの男にホッとするなんて、まるっきりヒモにほだされた女じゃない・・・!!



「━━で、今度俺とお前であちこち出掛けてみねぇ?お前の異能で大陸制覇すんのも面白そうじゃねえか」


「『で』・・ってナニ?話の脈絡が全く掴めないんだけど」


「いやほら、ここんとこずっと別行動だったからよ。たまには一緒にどっかに行くのも良いかなーと。“家族”だしな?」


「・・・!」


改めて口にされると、なんかムズがゆい━━━━!


家族かぁ・・。自分で言っといて今更なんだけど、微妙な感じよね。

せめてシグが元の見た目なら、抵抗なく『お祖父ちゃん』て呼べたのに。


一番妥当な立ち位置は“兄”なんだろうけど、将来シグに伴侶として女の人を紹介されても、素直に喜んであげられる自信は、あんまりない。


外面取り繕いながら内心メラメラ嫉妬しそう。

怪物モンスター小姑の爆誕よ。


我ながら矛盾してるなあと思うけど、シグを恋愛対象として見たくない気持ちの方が大きいのは事実。




だって“恋愛”は、ある日突然終わってしまうかもしれないから━━━━。



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