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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女、真冬の怪談ネタになる

「しかしまぁ、派手にやりやがったな・・・」


身体に付いた雪をパンパンと手で払い落とし、何事も無かったかのようにあっさりと起き上がったシグが、周囲を見渡して率直な感想を一言。


━━ああ、うん。予想はしてたけど。

あの雷、やっぱりお母さんの仕業だったんだ・・・。


ほとんどの住民が屋内に避難してたらしく、人的被害そのものは少なそうだけど、町中いたる所の地面が抉れ、落雷が原因の小火ボヤであちこちから煙まで上がる光景はなかなか悲惨。


ただどうやらお母さんは、動き回るものだけを狙ったと見えて、人間の住む建物を直撃した様子は、今のところ見当たらない。


「でも、暴走は止まったね?」


「そりゃお前・・・この期に及んででのんきに走り回ってたら、そこの天狼に狙い撃ちされちまうだろうがよ」


私の頭の上で“フスン!”と鼻を鳴らす“お母さんは、まだ微妙にお怒りモードが継続中。


『 さわがしい めざわり 』


・・・・・うわあぁ。


ヤバい。このまま放っといたら、もう一暴れしそうな雰囲気だ。

シグにもそれが感じ取れたのか、無言で天を仰いで現実逃避に走ってるし。


よし、回収しよう!


「お母さん、チビちゃんが待ってるから一緒に家に帰ろ?私、急に飛び出して来ちゃったから、グウィネスさんも心配してるだろうし。・・ね?」


自分は“跳んで”帰れば一瞬だけど、大魔神状態のお母さんを野放・・・ゲフン、放ったらかしにはしておけない。


それに少数とはいえ、そこら辺の物影にいるギャラリーの目の前で、異能で何度も出たり消えたりするのは避けたい。


我ながらあざといと思ったけど、お母さんの胸元に縋りついて上目遣いで“お願い”してみた。



『 ・・・わかった 』


わずかに逡巡した後、不承不承といった感じでだけど、お母さんは一緒の帰宅を受け入れてくれた。

そうと決まれば善は急げ。

後の事は適任者に丸投げして、とっとと帰ろう。


「という事だから後ヨロ。シグ」


「おう。いや、マジで助かったわ」


「それじゃ━━」


『帰ろうかお母さん』と声を掛けようとしたら、自分の身体が前置き無しに横倒しにされ、そのままブワリと宙に浮くのを感じた。


こっ、これはああああーーーーー!

久々の『お口パックン』!!


背中!ぜひ背中でお願いしますうぅぅ!という私の叫びは風圧で掻き消され、結局そのままお母さんのお口に咥えられて極寒の冬空をフライトする羽目になった。



私がうつ伏せでお母さんのお口に咥えられて広場を飛び立った直後、物影に身を隠していた狩人のおっさん達が、こっちを指差して何か叫んでるのが見えたけど、・・・知ーらなーい。







「━━子供が天狼に拐われた!!」


「表に逃げ遅れた子供がいたのか!?親は何やってんだ!!」


「あぁもう、助かりっこねぇ・・・!」


天狼が広場から飛び立つと同時に、物影に隠れて成り行きを見守っていた狩人達が姿を見せ始める。

“親”に強制連行されて行ったネージュを見て、町の子供が拐われたと勘違いしてるようだ。


・・・まあ普通、どっかから人間が湧いて出たとは考えんわな。



「お前、一番近くにいながら何やってんだ!」



頭に血が上った奴に詰られちまったが、色んな意味でお門違いだ。


「そう言うテメェは、身体張って助けに出てきたのか?物影でブルブル震えてただけだろうが。自分にできねぇ事を他人に期待すんじゃねーよ」


「お、俺はっ・・!怪我人を抱えてて、身動きが取れなかったんだ━━━」


「ああ、そうかよ。俺も天狼に踏んづけられて身動きが取れなかったぜ。━━━それとも今から俺とあんたで救出に向かうか?」


「そっ・・それは・・・」


「よせ、シグルーン。そいつはつい口が滑っちまっただけで悪気はねえ。そのぐらいで勘弁してやれ」


広場のどこに隠れていたのか、ガラハドの奴がひょっこり現れて仲裁に割り込んできた。


「あれは正しく天災だ。人間にどうこうできるもんじゃねえ。・・・拐われた子供は気の毒だが、今更どうにもならん。

それよりさっきのイカヅチの被害が深刻だ。動ける奴は町中を回って被害状況の確認と怪我人の保護を。緊急避難解除の鐘を打つのは、安全確認が終わってからにしろ━━━」


親分ギルドマスターの的確な指示が飛んだ事で、未だ混乱していた狩人達がノロノロとだが動き始める。


怪我人を安全な場所に運び込んで手当てを施し、あちこち駆けずり回って危険な生き物が町中に残っていないかどうか、確認作業に奔走しだした。




「━━━で?アレはどういうこった」


「どう、って何がだ?」


「テメェを踏んづけてた天狼に“お持ち帰り”された嬢ちゃんの事だ」


「・・・しっかり見てたってワケかよ」


「たまたまだ。いきなり現れてあの怪物に何か話し掛けてたてたみてぇだが、会話の内容までは聞こえんかった。お前がケロッとしてやがるってこたぁ・・・無事なんだな?」


「ああ」


一度会ったきりの人間を遠目で見分けるか。相変わらず目の良い野郎だ。


「だがこれ以上は詮索無用だ。━━━お前まだ死にたくねえだろ?」


「・・・」


この言い方だと脅しと捉えられても仕方ねーが、実際問題そうとしか言い様がない案件なもんで、一応言っておく。


「あの天狼は現在子育て中だ。言ってる意味がわかるよな?」


「!事情はサッパリだが・・・、手を出したら終わりなのは理解した」


「そりゃ何よりだ」


物分りが良いってのは長生きの秘訣だぜ。




この後、日暮れ直前に報せの鐘が打ち鳴らされて、怒涛の一日が終わりを告げた。


今回の大暴走による被害報告は、天狼の雷による家屋や建造物の損壊が主で、数名の重傷者と数十名の軽傷者。

奇跡的に死者は一人も出なかったという。


━━━そんな中、天狼に連れ去られる場面が目撃されたあの子供は、いったいどこの“誰”だったのかという話題になり、しばらくの間ちょっとした怪談話のように語られ続ける事となった。


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