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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女よ、熱く君を語れ

『え、なんでこんな事になってんの!?』


━━━というのが、私が最初に抱いた感想だった。


大暴走スタンピードの最中にいきなり飛び立ったお母さんを“幻視”で追っていたら、お母さんより先にシグを見つけて。

その戦いっぷりに唖然としてたら、唐突に目の前にカミナリが落ちた。


ドッカンドッカンと、そりゃもう立て続けに盛大に。


いったい何がどうなっているのかと、辺りを見回してから再び元の位置に視線を戻すと、シグがお母さんに踏み付けにされてて。


「え、これどういう状況?」


いや、わりと日常的に見る光景ではあるけど、今回お母さんの様子が何やら本気っぽい。

踏み付けにされてるシグの表情に、余裕がなさげなんだけど・・・!


ハラハラしながら見守っていると、グウィネスさんが真顔で「金剛がかなりキテるね」と一言。


「前にあれがキレて大暴れした時は、そりゃもう大変だったんだよ。金剛がぶっ放した衝撃波で、あっちこっちの峰が抉れて地形が変わっちまうし」


「ふぇっ!?」


「ちなみにその時キレた原因は夫婦喧嘩。前の雛を育ててた時、雄が番を独占する雛に嫉妬して雛を邪険に扱ったらしくてねぇ。金剛は旦那を半殺しにして巣穴から叩き出してたよ」


「ひいぃっ!!」


おっ、お母さん!容赦ねえええええーーーー!!


今のシグは頭に血が上ったお母さんに、文字通り命を握られてる状態だ。

何かの弾みでぷちっとされたら即アウト。


「だめ・・・駄目だよ、それはダメ・・・!」


いくら頑丈なシグルーンでも、心臓を潰されてしまえばお終いで。

そして一度死ねば人間は、二度と生き返らない。



「・・・止めないと」



そう思ったら、私の身体は一瞬で『現場』に移動していた。







「お母さん、待って!」


普段なら絶対、人目のある場所に直に跳んだりしないけど、今はそんな事言ってられない。

私はシグを踏み付けにしてるお母さんの足に、両手でしがみつく。


突然現れた私に、お母さんは僅かに目を見張る事で驚きを示したけど、反応はそれだけ。

その前脚は依然として獲物シグの身体を押さえつけたまま。


「シグ!?生きてる!?生きてたら返事して!!」


大きな声で叫ぶと、お母さんの大きな爪の隙間から見えていた腕がヒラヒラと揺れる。


「よかっ・・た、まだ、生きてた━━━」


まずはこの状況をなんとかしないと・・・!

私は改めてお母さんに向き直った。




「お願い、シグを放してあげてお母さん。・・・このままだと、シグが死んじゃうから」


『 わたしは それでかまわない 』


「ああ、そう━━━じゃなくて!私が、構うから!」


『 なぜ? 』


「何故って・・・、お母さんもシグルーンも、私の大事な家族だからだよ!もし、もしお母さんが、今ここでシグを殺しちゃったら・・・。きっと私は、お母さんの事を心から好きだと思えなくなる。そんなのは嫌だよ!」


『・・・・・・・』


「お願い━━━」


目を逸らさず、真っ直ぐお母さんの金色の目を見詰める。

お母さんには嘘や誤魔化しが通じないから、ちゃんと本心からの言葉を紡がなきゃいけない。


『 これを ツガイに選ぶか 』


「━━えぇ?なんでそんな話になるの!?シグは大事だけど、もうとっくに身内枠だからそんな対象にはならないよ!」


『 ・・・・? 』


お母さんの頭上にハテナマークが浮かんで見える。

ああ、もう、なんて言って説明したらいいんだろう。

人間の恋愛感情って伝えるの難しい。


「あのね、お母さん。人間が伴侶を選ぶ基準て、毛並みや腕っぷしだけじゃないの。人によっても好みはそれぞれ違うし、私は顔面特化の特殊戦闘スキル持ちより汎用性重視だから、ごく普通の男子がいいです。隣に並んだ女子が惨めになるような顔面偏差値の高い男は論外だし、熊や猪を素手で仕留められなくても、たまに家事を手伝ってくれたり、一緒に子育てしてくれるような、生活スキルのある旦那様が理想かなー、なんて」


『・・・・・』



シグは顔も身体も文句なしだけど、他の部分は文句しかない。

とにかくアレは恋愛対象外なんだと、拳に力を込めて延々と説明する。



『 ・・・なるほど 』


しばらくするとお母さんは微妙な表情(?)でシグを押さえ付けていた前脚を放してくれたけど、圧死の危機から開放されたはずのシグがグッタリしてて、なんだか瀕死の重症者のような有様だった。


「えっ、何!?もしかして内臓でもやられた!?」


「・・・違ぇわ。・・・なんだこのメッタ刺しにされた感・・・!」


「?どこも折れてなさそうだし、無事よね??」


「心が折れたわ!」




・・・よくわかんないけど、ピンピンしてるし平気よね?



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