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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女は視ていた

“幻視”の影像は大昔の無声映画トーキーと同じで音が無い。

だから初めはそれが何なのか、さっぱりわからなかった。


影像の内容があまりにも強烈過ぎて、曇天の冬空が時折明るくまたたくその現象が、何を意味するのか、気付きもしなかった。


自分が“視て”いる目の前に、盛大に雷が落とされる瞬間まで━━━━。







ドドド、と津波のような音を立て、自分のすぐ横を獣が群れを成して駆け抜けてゆく。

自分が剣を振るい始めてかれこれ一時いっときは経つが、暴走する獣の勢いは未だに少しも衰える様子がない。


「チッ、━━━キリがねぇな」


狂暴化が目立つ個体を狙って間引いてはいるものの、討ち漏らしは確実に出ている。

はっきり言って“焼け石に水”だ。

仕事として引き受けたからには賃金分の働きはするが、命まで賭けるつもりは毛頭無い。


元々住民が避難する為の時間かせぎで、折を見てさっさと引き上げるつもりでいたら、ヤバそうな個体が町に入り込むのが見えて、そうも言っていられなくなった。


慌てて町に走れば、広場の辺りで傷を負った成体の剣歯虎が大暴れしている━━━━。


「・・手負いかよ!」


獣同士の諍いか人間の手によるものかは不明だが、剣歯虎は首元の黄色い毛並みを血で紅く染め、牙を剥いて手当たり次第動くものを攻撃し続けている。


幸い広場に一般人の姿は見当たらず、町中に入り込んだあげく迷走し続けている他の獣と、根性で踏み留まったはいいが、逃げる機会タイミングを失った数名の狩人だけがその場に取り残されていた。


「お前ら、隙きを見て下がれ!」


「・・シグルーン!怪我をして動けない奴がいるっ」


「なにぃ!?」


殺気立った剣歯虎の目の前で、怪我人を抱えてヨタヨタ歩いていたら、避難するどころか恰好の餌食にしかならない。


「とどのつまりが、仕留めるしかねぇって事かよ・・」


━━━いや、仕留めるのは別にいいんだ。

つか、そのつもりで追って来たんだし。

ただ何というか、やり辛い。


「周りにこんだけ人間がいると、無闇に飛剣を撃つわけにもいかねーし・・・どうすっかなー」


とかなんとか、悠長な事を言ってたら、問題の剣歯虎がこっちに思いっ切りガン見してて━━━━、


「あ」と誰かが呟くのと、剣歯虎の前脚が自分に向かって振り下ろされるのがほぼ同時。


「っぶねぇええーーー!」


後ろに跳んで避けるのがちょっとでも遅れてたら、身体に縦縞たてじま模様が刻まれていたところだった。


ぐるるる、と不機嫌そうな唸り声が剣歯虎の喉から漏れる。

そして獲物を仕留め損ねた憤りからか、殺らねば気が済まぬとばかりに、執拗にこっちを狙い始める。


「しつっけえんだよ、ド畜生!!」


━━━ 避ける。躱す。跳ぶ。


延々と繰り出される爪の猛攻撃に、隙きを見て反撃を加えるものの、そこら辺の物陰に人間が身を隠していたらと思うと飛剣は撃てず。

物理攻撃を加えるには、大型相手に剣はリーチが短くていささか分が悪い。


━━━どうしたものか、と頭を悩ませていた、その時。


うなじの辺りにゾクリと怖気おぞけが走り、無意識にその場から大きく跳び退いた瞬間━━━━、



“ドゴオオオオオオーーーーーーーン!!!!”



目が眩む光と共に轟音が響き渡り、イカヅチが剣歯虎を直撃していた。


「げえぇ・・・っ!!」


一瞬にして炭と化した敵の姿と、その幸運な偶然に快哉を叫ぶ狩人達。

━━━だがここからが本当の恐怖の始まりだった。



ゴロゴロという不穏なとどろきと共に、凄まじい音を立て雨霰あめあられと降り注ぐ雷は、当然の事ながら落ちる場所を選ばず、人間の側にも万遍なく被害をもたらしていった。


そして何故か、自分を狙ってでもいるかのように、何度も直撃ギリギリの位置に落ちる雷。


━━━いや、これ、マジで狙ってねぇか?


そこまで考えてふと、もしかしなくても、という嫌な予感が頭のど真ん中に浮かび上がり、頭上を見上げると。



━━━ 予感的中。



そこには雷をまとって飛翔する、怒れる天狼の姿があった。




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