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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
144/156

乙女の勘違い

娘よ。いとけなく、あわれな、わたしの娘━━━━。

獣の咆哮に怯え、ただの風にさえ命を削られる。

お前の安寧を脅かすものは全て、この母が薙ぎ払ってくれよう。






もはや庭の風景の一部と化していたお母さんの様子に変化があったのは、正午まであと少しといった頃合いの事。


家の中でチビちゃんと普段通りに過ごしていた私は、ある瞬間自分を包み込む空間が“ゆわん”とたわむのを感じた。


気圧差で一瞬耳の聞こえが遠くなるような、━━そんな感覚。


「ウィネスさん、今のは・・・?」


「おや、気付いたかい。とうとう始まっちまったみたいだねぇ」


「えっ・・、もしかして大暴走スタンピードですか!?」


山全体を覆っていた一触即発の危うい空気が破られ、混乱状態に陥って結界に激突する獣が多数現れた結果、物理結界の術式プログラムが強化されたのだという。


「結界は正常に機能してるから安心おし。あたしの物理結界は竜が体当たりしてきたってそうそう壊れやしないからさ」


「鉄壁か!」


この人はいったい何と戦うつもりなのか。


そんな事より、外にいるお母さんはどうしているだろうと、慌てて窓に駆け寄れば、お母さんは翼を広げて今まさに飛び立とうとしている。


「お、お母さんっ・・・!?」


私の声にお母さんはちらりと一度こちらを振り返ったものの、それきり前を向くと、矢のような速さで飛び出して行ってしまった。


「ウィ、ウィネスさん!お母さんが飛んでっちゃいましたよ!なんで!?どうして!?・・・まさか、お母さんまで刺激されて暴走━━━」


「あー、ほらほら落ち着きな。金剛に危険はないから大丈夫さ」


「ほ・・・ほんとですか?」


「ああ、金剛には、ね」


うん?その微妙な言い回しはどういう意味かな?


やっこさん、子育て期間中にあんまり山がざわつくもんだから、かなり前から随分苛立ってたんだよ。ほら、前に一度チビ助が拐われてるだろう?」


「ああああ・・・そうでした」


「ただでさえ用心深い天狼が神経質になって子育てしてる最中に、他所者が大量に流れ込んで縄張り(シマ)争いなんか始めるもんだから、とうとう我慢の限界がきちまったんだろう。なんてったって二番目の雛は、ちょいと風に当てただけで逝っちまいそうな虚弱っぷりだからねぇ」


ぎぃやあああああああーーーーーーーーーっ!!

原因、私いぃぃぃ!?

お母さんの過保護っぷりナメてたよ!!


「本来下層の獣がどれだけ騒ごうが気にも留めやしないんだけど、今回は一暴れして鬱憤を晴らすまで収まりゃしないだろうねぇ」


「そ、そう、デスか・・。それで・・・本当に『大丈夫』なんですね?」


「なんだい心配性だね。あんたの親に危害を加えられる生き物なんて、そういやしないよ。━━━なんなら“視る”かい?」


「・・お願いします!」


いくら大丈夫って言われても、心配なものは心配だ。



二人で同じ長椅子に掛け、目を瞑って精神集中するグウィネスさんの腕に自分の手をそっと乗せると、ぼんやりとした影像が頭の中に浮かび上がってくる。


師匠の“幻視”が私の異能で底上げ可能な事は、以前に体験済み。

━━━繋がれ、繋がれ。もっと鮮明に!



「なんとまぁ・・」


「うわ・・」


徐々に焦点が合ってゆき、眼裏にくっきりとした画像が結ばれると、その光景に我知らず驚嘆の声を漏らしていた。



「これ、なんてネイチャー特番?」



“スタンピード”と聞いて、中途半端な知識で私が最初に思い浮かべたのは、ゲームの中のモンスターが大量に発生する禍々しいイメージの場面だったけど、実際には少々趣きが異なっていた。

遠目にはアフリカのサバンナとかで動物達が一斉に大移動する、あの光景に近い。


━━━俯瞰ふかんで見ている分には。


ただし視点が近付くにつれ、それが単なる思い違いだった事は、すぐに思い知らされた。


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