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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女的には『死んでも嫌だね!』

定期的に差し入れをするようになって一月ひとつきほど経った、ある朝。

カワセミ亭のシグの客室へやを訪れると、珍しく部屋の主は爆睡中だった。


どんなにこっそり近付いても、いつもすぐに目を覚ますシグルーンが、どういうわけか今回はピクリともしない。

不思議に思ってまじまじ様子を観察をすると、何故か上着コートを脱いだだけの状態で、着衣を緩めもせずに寝台に潜り込んでいる。


「よっぽど疲れてたんだ・・・」


そして、室内にはもう一つ気になる点が。


「なんで扉の前にバリケード?」


おそらく宿の女性従業員の特攻を防ぐためだと思うのだが、客室の扉が箪笥クローゼットやテーブルなんかの家具類で完全に塞がれている。


私が差し入れに来る際に、“どこ○も扉”で出入りする場面をうっかり他人に見られても困るから、なるべくこの部屋に人を近付けないで欲しいとは言ったけど・・・。


後腐れのない関係だったら“据え膳食わぬは男の恥”とかって、適当に摘み食いしてそうな感じなのに、シグってば意外にも潔癖?


━━と、そこまで考えてふと、『潔癖な男は女転がして将軍まで成り上がったりしないんじゃないのかねぇ』と鼻でせせら嗤うグウィネスさんのイメージが頭に浮かんだ。いや、ごもっとも。


よし。とにかくよく眠ってる事だし、差し入れだけ置いて家に帰ろう━━━。

そう思って寝台に背を向けた瞬間、着ている服の裾がワシッと掴まれた。



「飯、食う・・。あと・・・風呂・・・・・」



「━━シグ、起きたの?ご飯はすぐ食べられるけど、階下したの大きなお風呂はこれから準備しなきゃいけないから時間掛かるよ?」


「オマエんちの風呂でいい・・・シャワー、浴びる・・・」


なんか言葉遣いが妙に子供っぽい。半分寝惚けてるなこりゃー。


「寝たのいつ?」


「・・多分・・昨日・・・?昨日、の・・・明け方・・・」


まる一日寝てて食事もしてない、と。


「じゃあお風呂のついでに、朝ゴハンは久々に三人で摂ろうか。何かお腹に溜まる物を追加で用意するから、早いとこシャワー浴びちゃって」


「おむらいす・・」


「オムライスね、包むやつ?乗っけるやつ?」


「包むやつ」


何気に作るのが難しい方をリクエストされたけど、まあいっか。




その後お風呂から上がったシグが、何故か私んのソファーでゴロゴロしててちっとも動こうとしなかったので、朝食はグウィネスさんを呼んで異界部屋で摂る事にした。


「久々に顔を見たけど、元気そうじゃないかシグルーン」


「・・おう。ねみぃ以外は絶好調だぜ。昼夜逆転の生活でここ三日ばかし寝てなかったがな」


「うわ・・・三徹?」


この面子で自宅マンションで食事をする時は、キッチン横の小さなテーブルじゃなくて、いつもリビングのソファーセットで摂っている。そして大抵シグは二人掛けの席を一人で占領して、ダラけた格好で寛いでいる事が多い。

今だって部屋着を兼ねて新調した浴衣でしどけなく寝そべった状態で、行儀悪く料理をつついてたりしている。


「ちよっと、食事の時はきちんと起きてよ!いつも言ってるでしょ」


「んぁー?わかったわかった・・」


「テーブルに肘をつかない!あああー!食べこぼしたっ、ケチャップが浴衣の襟にっ・・・!」


「細けぇこた気にすんなって」


「するわ!」



「なんだろうね・・・アンタら新婚夫婦すっ飛ばして、幼妻おさなづまと介護されてる年寄りにしか見えないんだけど」


「夫婦っ!?」


「・・・ほー」


「冗談じゃありませんよ!」


「その手があった」


「はああっ!?ナニ言ってんのシグ!?」


なんか、話がおかしな方向に進み始めた!


「いやさー、父娘おやこの関係だといずれお前は嫁に行っちまうだろ?嫁にしときゃ俺は一生のお前の飯が食える」


「食い気が最優先なのかいアンタ」


「悪い提案じゃねーだろ?俺は顔と身体カラダにゃ自信があるし、稼げと言うならそこそこ稼ぐぞ?」


「“顔と身体と稼ぎの良い男”かい?そこだけ聞いてりゃ優良物件なんだがねぇ・・」


やめて!不治の病持ちの私に、それ以上の追い打ちをかけないでええええーーーーー!!



※病名  “面食いの病”



「でも案外あんた達、良い組み合わせかもしれないよ」


「どのへんがですっ!?」


「俺の守備範囲ストライクゾーンはわりと広めだぜ?さすがに未成年こどもは対象外だが、容姿みためにゃそれほど拘らねぇし。まあ、“無い”より“ある”方が好みだとしても、自分で育てるという手もあ━━━」



シグの台詞の最後の部分は、グーパンで即行ぶった切った。

おのれ貧乳(ひんぬー)女子の敵、ゆるすまじ。


乙女の拳がクリーンヒットした鼻を押さえて、床にゴロゴロと転がるシグを見たグウィネスさんが、静かに一言。




「こういうところがだよ」


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