乙女の後悔は先に立たず
私がエルモの町から“跳んで”帰った数日後、シグが山の家に帰宅した。
約束してた差し入れの件をガン無視し続けたら、例の酸っぱ辛い料理にとうとう音を上げて、どうやら泣きつきに来たもよう。
「・・・・・頼む。飯、食わせてくれ!」
玄関扉を開けるなり、開口一番の台詞がコレだった。
「他に何か言う事は?」
「わ、・・・悪かったよ」
「ちなみにシグはどの辺が悪かったと思ってるわけ?」
「いや、その・・・オメーを虫除けに使った辺りとか・・・」
なにやらゴニョゴニョと口の中で歯切れの悪い言葉を呟くシグ。
「そうね、でも一番のポイントはそこじゃないのよ」
「はん?」
この男の最大の問題点は、乙女の扱いが雑過ぎなところだ。
「あんたね・・、私を女扱いしろとは言わないけど!もうちょっとこう、丁重にというか、丁寧に扱えないわけ!?こちとら繊細なお年頃の乙女だってのに、気安くベタベタ触り過ぎよ!」
ヨッシャ、言ってやったぞ!と多少すっきりした気分になっていたら、目の前のシグがものすごーく微妙な顔付きで首を傾げた。
「・・・なあなあ、俺ぁその“でりけーと”なお年頃の乙女とかいうやつに、全身くまなく撫で回された上に、何度も上に跨がられたような気がするんだが」
「あっ・・あれは事故!事故だからっっ!!」
ぐううっ、痛いところを!!
「なんでお前が俺を撫で回すのは良くて、俺は駄目なんだ?不公平だぞ」
「うっ・・!」
公平不公平の話じゃねーわ!と声を大にして言いたいけど、私のあの振る舞いが痴女と罵られても致し方ないレベルなのは自覚している。
獣人はあくまでも獣人。人なのだ。
でも私だって、いきなり見ず知らずの獣人をつかまえてモフったりしないから!
「・・・わ、かったわよ。じゃあ私も今度から、シグをモフるのはやめるわよ」
「え?なんでだ?」
「は?」
速攻での返しに、今度は私の顔に『?』の表情が浮かんだと思う。
「いやさ、不公平だのなんだの言うんだったら、これが妥当な提案でしょ」
「別に俺はこれまで通りで構わねーが?」
「・・・うんん??」
「だいたいなー、俺が獣姿ん時は俺が甘噛みしても舐め回しても、お前ちっとも気にしてやしねーだろが。人型の時は駄目ってなんなんだ」
「!!!」
い・・・言われてみればその通り・・・!!
「いや、だって、それは・・獣だし・・・?見た目というか、絵面的に抵抗が少ないというか」
「ふーん?」
あっ、なんかニヤニヤとヤバ気な顔付きに・・・。
「よし。じゃあ獣の姿でなら、俺に全身舐めまわされても文句はねーんだな?」
「っ、はああああ!?なんでそーなるの!!」
ワケわかんないんだけど!!
これってやっぱり私が悪いわけ!?
毛皮に目が眩んで、男を押し倒した報いがソレ!?
いーーやーーだあああぁーーーーー!!
私の気分は既にムンクの『叫び』状態。
男の身体を好き勝手に弄んだ自覚があるだけに、咄嗟の反論が思い浮かばず頭の中は大混乱。
為す術もなく狼狽えていたら、スパーーンという小気味良い音がして、シグが頭っから床に倒れ込んだ。
「玄関先で盛ってんじゃないよエロジジィ。去勢されたいのかい」
・・・・・今回は平手。
すくいのてがあらわれた。