朝チュン乙女とお約束的な何か
朝っぱらから家中に響き渡った叫び声に、何事かと別宅まで様子を窺いに来たグウィネスさんは、異界部屋のリビング側から寝室のドアを開けて中を覗き込み━━━、次の瞬間般若と化した。
寝台の上で寝間着代わりの浴衣の前をはだけ、しどけなく寝乱れた様子のシグと、その隣で明らかに泣き腫らした顔で縮こまる私。
「・・・同意も無しに手を出したのかい」
「━━は?」
グウィネスさんの握り締めた拳に血管が浮き上がる。
「いや待て、待て待て!」
男女が寝台の上で一夜を過ごしたとなれば、傍目には『そういう状況』に見えない事もない。
いや、ナイんだけども。・・・多分。
私自身まだ混乱してて、正直なところ今のこの状況が全く掴めていない。
「ただの添い寝だっつの!」
━━━全力で否定しやがった!
それはそれでなんか面白くない。チッ。
「本当かいハネズ?このジジィに何かされてないだろうね」
「た・・多分?叫んだのは、つい驚いて・・・」
「そうかい」
そう言うとホッとしたように表情をゆるめたグウィネスさんは、振り上げた拳を━━━フルスイングでシグの鳩尾にめり込ませた。
「ぐぉっ!!」
「嫁入り前の娘の寝床に!勝手に潜り込んだ時点で有罪に決まってんだろうが!!このスットコドッコイ!!」
・・・そりゃまあ、そうよね。
その後シグの口から昨夜の一件が語られて、不完全な状態であったにしろ、この部屋が一時的に元の世界と交わった事を知ったグウィネスさんは、今度は別の意味で目の色を変えた。
「いったい、どうなってんだい━━━?何をしても繋がらなかった“向こう”と“こっち”の時間軸が重なるなんて」
「私も何がなんだかサッパリ・・・」
あの後ひとまず身嗜みを整えてから、私達は隣のリビングに移動した。
母屋に繋がるクローゼットの扉が開け放されている状態だと、普通に時間が経過して空腹も感じるので、今朝は別宅で朝食を摂っている。
朝食といっても、いつもこの時間帯の食事はお茶かコーヒーに軽い焼き菓子を摘まむ程度なんだけど。なんだか今朝は物凄く糖分が恋しくて、パンケーキにバターやハチミツを添えたガッツリ目の食事になった。
泣くのって思ったより体力使うんだー・・。
シグは「朝から甘いもんかよ」とか文句言いつつ二皿ペロリと平らげ、三皿目をハムとクリームチーズで頬張っている真っ最中。
“食事”という日常の行為を行う事で、どうにかいつもの平常心を保ってはいるけど。
昨日の出来事を思い返すと、途端に鼓動が跳ね上がる。
これまで何度も自分自身の異能で“向こう側”に繋がる転移を試みた私とはまた別に、グウィネスさんもずっと独自に異界との接続方法を追究してくれているみたいなんだけど、未だに成功してはいない。
一方的にでも一瞬でも、あちらと時間が繋がったのは今回が初めて。
何かあるはず。いつもと違う『何か』が。
あの時、自分は何かに違和感を感じたはず。
━━━考えろ、考えろ。
『あの時』シグに声を掛けられて振り向いた私は、そこで初めて窓の外の風景が生きて動いている事に気付いた。
「確か━━━。風が吹いて・・・桜、・・・吹雪が━━━・・」
桜の舞う光景を思い出したところで、頭の隅に何かが引っ掛かる。
━━━だけどそのどこにも不自然な点はなかった、はず・・・。
あの部屋の季節はいつも同じ。
高校を卒業し、大学入学を目前に控えたあの春の午後。
「季節・・・『春』━━━━?」
昨日のあの光景は、『いつ』のもの?
私がこっちに来てもう半年以上経つけれど。
日本での時間はどれだけ過ぎた?
私に会って、向こうとこっちでは時間の流れが違うのか、と驚いていた青磁。
「━━━もしかして・・」
「ハネズ?」
「ネージュ?」
こんなのは、私のただの願望かもしれない。
そうであって欲しいという。
「・・・・・向こうでの季節が一巡して、私がこっちに落ちて来た時と同じ時季に重なってるのかも」




