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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女の予感は嫌なものほどよく当たる

その日の午後になって外出先から数日振りに帰宅した家主グウィネスさんが、午前の食事を摂り損ねたと溢したので、午後のお茶請けは少しボリュームのあるものを用意してみた。


「今日のお茶請けはサンドイッチ各種と、ウィネスさんには特別メニューのクロックマダムでーす」


「ありがたいねぇ。実はかなり空腹だったんだよ。手間をかけさせて悪いね」


「いえ、ほとんど別宅の食材を流用したので、それほど手はかかってませんよ」


サンドイッチは自宅に買い置きしてあった八枚切りの食パンに、冷蔵庫に常備されてたハムやスライスチーズを適当に挟んで切っただけだし、クロックマダムにしたって材料はサンドイッチとほぼ同じものだから、たいした手間じゃない。


「おいネージュ。そのクロックなんとかってーやつ、俺の分はねぇのかよ」


「シグはいつもの時間に朝食兼昼食ブランチを摂ったでしょ。サンドイッチが沢山あるからいいじゃない」


「グウィンだけズリーぞ!」


「・・・また子供みたいなことを」


いい年齢した大人が、食べ物の事で拗ねてこっちにジト目を向けないでよね。


「じゃあ、明日の朝メシはそれがいい」


「ハイハイ」


よわい十八にして育児に疲れた主婦の気持ちがわかる乙女ってどうなの。




「今回はどこまでお出掛けだったんですか?」


グウィネスさんの“お出掛け”は主に転移の魔法陣を駆使しての移動になるから、日帰りでもたまにとんでもなく遠方まで跳んでいたりする事がある。


足掛け四日の外出ともなれば、目的地(どこだか知らないけど)に長時間滞在していたということに他ならない。

魔法陣での移動は一瞬だからね。


「ちょっとばかし調べたい事があって、久々に古巣に戻ってみたんだけどさ。数十年振りだったもんで、知った顔が激減してて参ったよ」


「古巣」


魔術師学士院アカデミーさ。具体的な場所は教えられないけどね」


この話の流れからすると多分、一般人は立ち入る事が許されていない場所なんだろう。

私のイメージとしてはアレかな。超有名ファンタジー映画に登場する魔法学校。


図書館ライブラリの蔵書を閲覧したかっただけなのに、魔力紋の照合にえらい手間取っちまってさ。イライラして危うく図書館を吹っ飛ばすとこだったよ」


「・・・勘弁して下さい師匠」


“魔力紋”というのは声紋や指紋のように、人間一人一人によって異なる魔力の波形の事で、予め媒体に記録させて身分証代わりにすると聞いたような覚えがある。


「なにしろ数十年振りだったもんで、登録してた閲覧資格が消されちまっててさ。参ったよ」


「それで、図書館には入れたんですか?」


「うん?入り口のとこで司書と揉めてたら、奥から館長ハゲがすっ飛んできて『手順を守れば入れてやるから大人しく待ってろ。さもなきゃ出禁だ!』と怒鳴られてねぇ」


「デショウネー」


その後で一応目的は果たせたらしいけど。なんだかこれ以上詳しい内容を聞くのが怖い。

・・・他にもナニかやらかしてきてませんか?



「━━━でさ。図書館で幻獣に関する書物を漁ってて、ちょっと面白い資料を見つけたんだよ」


あー・・やっぱり、そっち方面の“調べ物”でしたか。


「あたしがアカデミーを出た後の事なんだけど、かなり熱心に幻獣に関する研究に取り組んだ男がいたらしくてね。そいつの名前が“セレンディード”というんだ」


「セレンディード・・・」


━━━なんか、どっかで聞いた名前じゃないの。


「イェレニス・セレンディード。幻獣の生態解明とその能力についての検証を主な研究テーマにしてたみたいでね。図書館にはそいつの書いた本が何冊も収蔵されてたよ。ただねぇ・・・あそこは蔵書の持ち出しが禁止されてるもんだから、一通り読み終るのに時間を食っちまってさ」


「はぁ、なるほど」


後でグウィネスさんが著者について関係者に問い合わせたてみたところ、本人は二十年前くらい前に学士院アカデミーの研究所を辞めていて、同僚には『生国に戻る』と話していた事だけが判明。


━━━で。その『生国』というのが。



「・・・ソルフェージュ、ですか」



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