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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女的な展開は?

「夜泣きしてやるって、あのねぇ・・・」


全身の力がドッと抜けた。


新たに開けてしまった『扉』の向こう側には、僅かな希望の欠片すら見当たらなくて。

もうこの世の終わり的な気分に陥りかけてたのに━━━━これだ。


・・・シグといると絶対に悲愴感が持続しないのはなんでだろう。


ありがたいんだけど・・・、ありがたいんだけどなんかこう、毎回『そうじゃねえぇ!!』と叫びたくなるんだけど。


こういうシリアスな場面て、年長者ならもっとこう、乙女心を慮って気のきいた台詞で慰めてくれたりするもんじゃないの。


かつての自らの女性遍歴が、芝居や読み物になって巷に流布するほど、女性の扱いに関しては百戦錬磨の男なんじゃなかったけ?



「・・・もし仮に、の話だけど。この先、私が元いた世界に還れる方法が見つかったとしても、何も言わずに自ら消えるような真似だけはしないわ」


「還らない、とは言わねーんだな」


「・・・」


それは多分、まだ私が色々と諦めきれていないからだ。

向こうの世界で思い描いていた将来の夢や、何事もなければあと数十年は生きられたはずの“冬木華朱”としての人生を。


本来なら即死か瀕死の重傷を負ってておかしくはない状況で、掠り傷ひとつ負わずにこちら側に落っこちて。

実際に『死』の痛みを体感したわけじゃないから、まだどこか甘い希望を捨てきれない。


もしかしたら━━━、もしかしたらまだ、向こう側に繋がる未来があるんじゃないかと。


「・・・わり。今のはナシだ」


自分で言っといて流石に無神経な発言だとでも思ったのか、珍しくシグが気まずそうに視線を逸らした。


「『とっとと還れ』と言われるよりマシ。ちょっとは別れを惜しんでくれたってことでしょ?」


「ちょっとどころじゃねーぞー?お前が消えちまったら、俺の残りの人生ツマンネーどころの騒ぎじゃねーんだよ。━━━この無駄に肥えた舌をどうしてくれんだ!」


「そっちかッ!!」


情緒面で惜しまれてたわけじゃないんかいっ!!ガッカリだ!!


あーあーあー、散々餌付けしましたとも!

異界部屋のキッチンフル活用で、こっちには無い調味料バンバン使って日本の味を再現しましたともさ!

だって自分が食べたかったからねっ!!

世に拡散させるつもりも無いから、今後も自重ナシで好き勝手やってやるわよぉぉーーーー!!


なにこの物凄い肩透かし感・・・、

むーかーつーくーーーーー!!

きいいいいいいいいぃッ!!


あんまりムカつくんでシグの頭をかき混ぜて髪をぐちゃぐちゃにしてやったら、当の無神経男は「ワハハハ」と笑って人の頬を掴んでアヒル口にするし!小学生かっつーの!!


だからさー・・もっとこう・・・、もっとこう・・・!!



つまるところ、『俺を頼れ』みたいなアニキ的な包容力をシグに期待した私が間違いだったってことね!




━━━だけど。胸にジワジワと押し寄せていた黒い不安の波は、いつの間にかきれいに消え失せていた。


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