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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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ギブミー ロマンス!by乙女

なんでこのタイミングで現れるの、とか。

また勝手に他人の部屋いえに上がり込んで、とか。

シグに言いたい事は他にも色々あるんだけど━━━━。


「・・・とにかく服を着て」


後ろを振り向かずにそれだけ言うと、お腹に回されていた腕がスルリと解けて一旦気配が遠ざかり、数分後にいつもの浴衣(シーツで縫ったやつ)を身に着けたシグが現れた。




「ついさっきまで庭でゴロゴロしてたのよね?━━━何か私に用でもあったの?」


「いや、・・・そういうわけじゃねーんだが・・・」


ガシガシと頭を掻きながら視線を泳がせるシグ。

歯切れが悪いことこの上ない。

いつもいらん事まで口にして他人ひとの神経に障る言動しまくりのこの男にしては、物言いがハッキリしない。


「・・・・・・・」


「?」


異能ちからが使いこなせるようになったというから・・・」


「うん」


でもまだほんの少しだけどね。


「・・・お前が、消えていなくなるような気がしたんだよ」


「・・・・・」


「お前は現れ方が唐突だったから、消えんのも()()かもしれないだろ」


「・・・シグは、私がシグやウィネスさんに一言も何も言わずに姿を消すような薄情者だと思ってるわけ?」


「違ぇよ!そーじゃなくてだな、あー、なんつーかほら・・・不可抗力とか不測の事態ってやつもあんだろ。確実に元の世界に戻れんならいいが、またいきなりどっか別の場所に跳んじまったらどうすんだ」


「・・・そう、だね」


もしかしてこれは、心配してくれたのかな。

少しは“私”という存在を惜しんでくれていると、自惚れていいんだろうか。


「もし・・・もしだけど、私が消えたらシグは━━━・・わわっ!!」


『淋しいと思ってくれる?』


そう訊こうとして、結局その言葉は口にすることができなかった。


何故なら物凄い勢いでシグに膝の裏を掬われ、いつもより数段高い位置に抱え上げられて目を回したから。


「ふぁうっ・・」


いつも見上げているはずの氷翠ひすいの両眼が、今は何故か眼下に見える。

おまけに不安定な姿勢でふらつく身体を支えようと、無意識に伸ばした腕がシグの頭を抱く格好になって、至近距離でバッチリ視線が合ってしまった。


「う”っ!」


久々の大ダメージ。

一緒に暮らし始めてかなり耐性が付いたとはいえ、直視にはかなり堪えるお顔・・・・・!!



「なぁネージュ。お前このままずっとこっちに居ろよ。お前の面倒ぐらい俺がみてやるからさー」


「はぃ・・?」


「自慢じゃねーが俺ぁ、その気になりゃ一財産築ける程度の腕っぷしはあるぞ?」


知ってる。元傭兵で元将軍様だもんね。

うん???もしかして私、いま何気に口説かれてたりする?

━━━これまでにそんな色恋的な要素がドコにあった!?


「なーなー、そうしろよー」


いやマテ、はたしてこれは女を口説いてる男の態度なのか!?

どっちかってゆーと、お気に入りの宝物オモチャを手放したがらない幼児こどもみたいなんだけど!?


「えーと・・・。私、まだそこまで思い切れそうにないから・・・」


“帰れない”から“帰らない”のであって、五体満足な状態で無事に帰還できる手段があるなら━━━多分私は向こうを選ぶ。


この家での暮らしがこっちの世界としては破格の水準なのは理解してるし、保護者に恵まれた現在の状況がとても得難いものである事も、重々承知している。


だけど、元の世界で積み重ねてきた年月の重みは、こちらで過ごした月日とはまだ到底比べる事なんかできやしない。


大事な人達も、叶えたい夢も、何もかも置き去りにしてきて、心残りが無いなんて言ったら嘘だし。

未練タラタラに決まってんじゃない!


「俺が我儘言ってんのは理解してるぜ?けどなぁ・・・お前がある日急にいなくなったらと思うと、なんだかスッゲー面白くねぇんだよ」


「おも・・」


なんだそれは。


「だからなぁネージュ?お前が勝手に消えたりしたら俺は━━━━━」


「・・俺は?」





「夜泣きしてやる」





だから、なんだそりゃあああああああーーーーーーーー!!!!




シリアスな気分が一気に霧散した。

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