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乙女に捧げる狂詩曲  作者: 遠夜
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乙女は彼方へ

ヴェントの民】というのは、元の世界でいうところの遊牧民のようなものらしい。

それも、勇猛果敢な騎馬の民。

かたくなではあるけど一度心を許せば義理に厚く、伝統的に血の絆を何よりも重んじるという。




「なんと、賊にかどわかわれた娘御を救う為に軍を出奔なされたとは!いや自分も子の親、そのお気持ちはよう解る」


「夜陰に紛れて娘を救い出し、身一つでなんとか逃れては来たものの故郷には戻る訳にもゆかず、他国に渡るつもりで草海をさ迷い歩いていたところを、思いがけず情けを掛けていただいた次第・・・」


「随分ご苦労なされたようだが、お二方共無事で何よりよ」


「お気遣い痛み入る」


現在私とシグはとある風の民の一家の天幕にお邪魔していた。

この一家の家長さんは人の良さそうなお爺ちゃんで、子連れで草海をさ迷っていたシグに気付いて仲間を迎えに寄越してくれた、いわば恩人。


そしてその恩人を丸め込む気満々のシグ。

よくもまあこんだけ適当な身の上話をつらつらと・・・。

軍人より詐欺師の才能があるんじゃないかと思う。


あんまり調子に乗って話を盛るんでつい咎めるような視線を送ったら、ガバリと抱き寄せられて「心配するな、これからもこの父が守ってやる!」と芝居がかった台詞をお見舞いされ、副音声では『お前は黙ってろ』としっかり釘を刺された。


ちょっとばかし癪に障ったから「怖かったですゥー」とバカっぽい泣き真似で仕返しをしてやったら、口の端をひくつかせるシグとは対照的に、人の良さそうなお爺ちゃんは「おお、可哀想に!」とかってすっかり本気モードに突入。

女性陣にあれやこれやと言い付けて、私は散々世話を焼かれる流れに。


結局この日は泊めて貰える事になり、男女別に別れた天幕でそれぞれ身体を休める事が出来た。


・・・せめて夢の中でぐらい向こうに残してきた人達に逢えやしないかと願ったけど、それも叶わず。

支離滅裂でとりとめもない子供の頃の思い出ばかりを繰り返し夢に見て、また泣けた。






翌朝起きて天幕の外に出ると、まだ世が明けたばかりだというのに誰もが忙しく立ち働いていて、自分がすっかり寝坊をした気分になった。


驚いたのはシグと家長おじいちゃんの間で既に交渉が成立していて、ホルンという鹿に似た騎獣と当座の食糧なんかが、鞍にきっちり二人分用意されていた事。


「シ・・・お父さん、無理をお願いしたんじゃないの?」


うっかり呼び捨てにしそうになって、人目がある事を思い出す。


「うん?こりゃ正当な取り引きだ」


「でも、お金なんて持ってなかったでしょ・・・」


『父親』が善意のお年寄りにつけこむようなロクデナシだとしたらガッカリだ。


「お前さんな・・・仮にも親をそうあからさまに疑ってくれるなよ。ほれほれ」


「?」


苦笑しながらトントンと自分の左胸を指で指すシグの仕草に、ふと違和感を感じて首を傾げる。


「あ・・・勲章が無い」


昨日までジャラジャラと軍服の左胸を飾っていた沢山の勲章が、一つ残らず外されている。


「どれも銀の台座にそれなりの貴石いしが嵌まってるやつだし、損はさせてねえよ。爺さん装身具に作り替えて孫の嫁入りに持たせるつって大喜びしてたぜ?」


「そっか」


本当の事は言えないにしても、助けてもらっておきながら恩人に嘘八百並べ立ててる身としては、ちょっとだけ罪悪感が薄らいだ気がした。






そしてその日の早朝、私とシグは再び国境を目指して草の海に漕ぎ出した。





























































































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