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Diary  作者: 海砂利水魚
1/5

はじまりはじまり

明日から頑張る。

なにもかも自分が1番だった。

世界の中心は自分のいるところだと、本当に思っていた。

小学生の時、社会の授業で都道府県を覚えさせられた。その時の衝撃は、今でも忘れない。日本は世界の中心ではなく、自分が住んでいる場所は、その世界の中心ではない日本の中心ですらなかった。自分がおかしいのではなく、世界がおかしくなっているんだとおもった。



幼稚園では1番背が高く、1番足が速かった。それだけでヒーローだった。勉強もよくできた。僕がアンカーになると、必ず僕のチームが1位になってしまうからか、いつの間にかアンカーをさせてもらえなくなっていた。別に不満もなかった。

ある日の運動会の練習中、僕の次に足の速い子が走っている姿を見た時、ふと思った。彼は僕よりも走るのが速いのではないか?

その日から恐怖の日々が始まった。

アンカーを任されなかったことを心底良かったと思った。彼と競えば、僕のほうが遅いことにみんな気づく。そうしたら僕はヒーローではなくなってしまう。それはあってはならないことで、そうなれば僕の存在価値が失われる。幸い、1番足が速い僕を保ったまま卒園を迎えられた。

少し離れた地域に住んでいて、同じ幼稚園から僕の進む小学校に入学する子はいなかった。



小学校に入ると、僕はまた1番だった。足も1番速い、背も1番高い。記憶はほとんどないが、僕は小学1年生の時に学年で1番喧嘩が強いとされる子を投げ飛ばし、泣かしたらしい。喧嘩でも1番ということになっていた。

良かった、ここなら安心していられる。ヒーローでいられる。


安寧を手に入れたと思ったが、それも一瞬だった。僕より足が速い子が現れた。50m走のタイムで明確な数値が出てしまうため、幼稚園の時のように逃れることができなかった。身長においても、僕は1番ではなくなった。いつの間にか僕を追い抜き、さらに差をつけようとしている同級生たちにただただ劣等感を感じていた。僕はあまり席を立たなくなった。立ち上がり、彼らと並び立つことが心底嫌だった。走ることも少なくなった。追いつかれ、追い越されることが恐かった。

喧嘩は極力避けた。これを失えば僕の存在価値が消えてなくなる。負けることなど許されなかった。喧嘩が始まってしまったら、何がなんでも相手を負かすまでは止まらなかった。なんとか喧嘩の1番は守り抜いた。高学年の頃には喧嘩を吹っかけられることもなくなった。


立ち上がること、走ること。高学年になっても、この2つが恐くて仕方がなかった。数値が疑いようもなく明確に劣っている。しかし、それでも、立ち上がって並ぶまでは、一緒に走り勝敗を決するまでは、負けていないと言い聞かせていた。

6年生になり、進路を考えなくてはならない時期になった。

ほとんどの児童は地元の中学校にそのまま進む。だから僕は受験をして、みんなとは違う学校に進む道を選んだ。なにもかもが嫌になっていた。この1番であることを捨てたかった。新しい環境で何もかもをやり直し、1番でなくてもいい自分を見つけたかった。勉強は苦手ではなかった。試験に難なく合格し、晴れてみんなと違う、誰も僕を知らない新しい環境に身を投じた。

明日から頑張る。(2回目)

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