「……守りたまえ!」
「クエーーーッ!!」
かけ声一つ。
大きく広げたソカル神の翼が硬質化して、ブーメランに変身する。
ブーメランといえばオーストラリアのものが有名だけれど、インドやアメリカ大陸や、ここエジプトにも古くからあり、ツタンカーメンの王墓には色鮮やかな装飾のされたブーメランが何本も納められている。
漆黒のソカル神をプタハ神が掴み、アポピスに向けて思い切り投げつける。
アポピスは身をかがめて攻撃をかわすが、神の武器はかわされたぐらいで終わりではない。
ブーメラン・ソカルは弧を描いて舞い戻りながら、きらめく星をまき散らす。
降りそそぐ無数の光は、アポピスのウロコに触れて爆発した。
アポピスがのたうち、暴れ、地面がえぐれるが、並ぶ棺はバリアに守られている。
しかし……
星の流れ弾が起こした爆風がツタンカーメンをかすめ、顔にかかった頭巾を掻き上げる。
棺の護符から外れた宝石を嵌めなおし、ツタンカーメンは先ほど見た船上の王族の祝詞を真似て唱えた。
「……守りたまえ!」
ビョワン!!
初めてとは思えないほどうまくいった。
護符は無事に発動。
そして……
いきなり張られたバリアがツタンカーメンを弾き飛ばした。
「うわっ!」
ツタンカーメンの霊の体が、身を隠すものの何もない空間に放り出される。
そこにちょうどアポピスのしっぽが打ちつけられた。
それは、生きている肉体ならば即死、死んでいても霊体がバラバラになるほどのエネルギーだった。
「!!?」
衝撃、と同時にツタンカーメンの全身に備えられた護符が強く輝き出す。
ファラオの王冠に飾られたコブラとハゲワシの像が、ファラオの生命力の身代わりとなって魔力を使い果たして砕け散る。
「ひょえええええっ!?」
ツタンカーメンの体が宙を舞う。
神に匹敵する力を持つ巨大な蛇が放った打撃は、貧弱な少年王を、山脈を軽々と越える高さまで跳ね上げた。
「ツタンカーメン君!!」
慌てるプタハ神の姿が見る見る小さくなる。
冥界の暗黒の大空を飛ばされながら、古代エジプト人にとって生命の象徴であるサンダルが、右、左、と消えていく。
「うわああああああ」
高度はまだまだ上がっていく。
腕輪と首飾りが消える。
「ああああああああああ」
まだ十エリアも残っていたアメンテトの地を全て飛び越えての場外ホームラン。
「ああああああああああ」
やっと高度が下がり始める。
たくさんあったはずの指輪は、もはや一つも残っていない。
「あああ……ぶわっ!!」
大地にたたきつけられる寸前、最後に残っていた腰布の飾り紐が光を放った。
ベチャーっ!
ツタンカーメンを迎えた地面は、一瞬前までは硬い岩盤だったが、今は沼になっていた。
* * *
痛くはない。
怪我はしていない。
「うえぇ……どこだ、ここ……?」
泥から顔を上げる。
太陽神の居ない、月も星もない闇の中で、たいまつの炎がツタンカーメンの瞳を射た。
「???」
見下ろしてくる人影が二つ。
おとなしそうな女性と、鋭い目の男性。
二人ともツタンカーメンと同じくらいの年齢に見える。
女性の方が明かりを持ち、男性の手もとでは、何かが鋭く光っている。
「供物をよこせ」
見知らぬ男がツタンカーメンにナイフを突きつけた。
挿絵はとあるお方からいただいたファンアートでございます♪
ありがとうございました!