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「牛肉と白菜のスープ!」

「カルブ! 三週目だ!」

「行きます! 細かく切ったアーモンドで飾られたパン!」

「来い! 細かく切ったアーモンドで飾られたパン!」


 アテン神が回転しながら触手を巻き取る。

 幽霊達は引き寄せられて、太陽円盤本体に押しつけられる。

 暖かさに、柔らかさに、幽霊達はとろけるような表情になり、アテン神に身をゆだねる。


「行きます! 牛肉と白菜のスープ!」

「来い! 牛肉と白菜のスープ!」


 全身がぽかぽかと温まり、アテン神に心をゆだねる。

 葬祭殿全体が光る。

 たいまつだけでなく、柱や床の石まで輝き、エジプト中の神々がアテン神と信者達を祝福している。

 死霊全員を抱きしめて、アテン=つーたんが天へと昇り始めた。



(ああ……)

 それはあまりにまばゆくて美しくて……だからカルブは悲しくなった。

(このまま行っちゃうんだ……)

 それはカルブとてわかっていた定め。

 それでもカルブは階段を駆け下りていた。


 ツタンカーメンは死者の国へ行く。

 オシリス神のアアルの野。

 プタハ神のアメンテト。

 アテン神にも独自の冥界があると云う。

 誰もがいずれはいずれかに行く。

 そこでは人は神とともに在る。


 カルブは階段の途中で立ち尽くした。

 このまま階段を下りれば高度で、上れば距離で、どちらにしてもツタンカーメンは遠くに行ってしまう。


 アテン神は上昇しながら回転を続けている。

 だからツタンカーメンも、背中から横へと、カルブから見える角度が変わり……

 ツタンカーメンの横顔は……

 悲しそうだった。


「ツタンカーメン様!!」

 カルブの叫びと同時に、神殿中の光が消えて、アテン神がしゅるるるるっと墜落した。

「な!? ツタンカーメン様!? 大丈夫ですか!?」

 残っているたいまつと、アテン神本体の光を頼りに、カルブは階段の下へ急いだ。



「うう~。重量オーバーぁぁぁ」

 アテン神は触手を持ち上げて、信者が床にぶつかるのだけは防いだものの、本体はおそらくしりもちをついた状態でぺにょんとなっていた。

「どうなってるんです!? まさか食べすぎですか!?」

「違うよぉ。まだ救われていない人が居るんだよぉ」

 アテン神の言葉に、カルブが慌てて信者達を見回す。


「つーたん」

 呼びかけられ、ツタンカーメンはハッと顔を上げた。

「アクエンアテン君のことで、心が重たくなっちゃってるね」

「…………」

 ファラオはしゅんとうつむいた。


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