表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/83

「ザクロのジュース!」

 増えた分の触手もまた、すぐに蚊柱に覆われる。

 蚊柱を満たすにはまだまだ触手が足りない。

 ここまでは前菜だ。


「行きます! タマネギとニンニクとヒヨコマメのスープ!」

 カルブがスープの器を掲げ持つ。

 祭壇にスープが捧げられたのはまだ日が出ている時間だったはずだが、女神イシスの力で保温されているので湯気が立っている。

「来い! タマネギとニンニクとヒヨコマメのスープ!」

 ツタンカーメンの手の中に、スープの霊体カーが器ごと現れる。

「スプーンもくれ!」

「はい! えい!」

 寒暖差の激しい砂漠の夜に、体の芯から温まる。

 アテン神の触手が増える。

 そこにまた蚊柱が群がる。


 次は特大の魚。

 魚は庶民の食べ物とされているが、これほどの大物ならば神秘性を感じて神殿に捧げてもおかしくない。

「行きます! でっかいナマズの香草焼き!」

「来い! でっかいナマズの香草焼き!」

 カルブが上手に骨を避けるので、慣れないツタンカーメンでも安心して食べられる。

「おお! うめー!」

「こういうのは初めてですか? ふっふっふ」

 アテン神の触手が増える。

 それでもまだ多くの蚊が、留まれる場所なく飛び回っている。


 次は口直しにワイン。

「行きます! ワイン!」

「来い! ワイン!」

 高級品であるブドウの実の、最も高貴なたしなみ方。

 二人とも十八歳で、古代の基準ではとっくに成人している。

 カルブは一口飲んで笑い出す。

 ツタンカーメンは余裕。

 アテン神の全身から芳醇な香りがただよい始める。


 いよいよ肉料理。

「行きます!! 子羊の丸焼き!!」

「来い!! 子羊の丸焼き!!」

 これはもう、これ以上の説明は要るまい。

 子羊である。

 丸焼きである。

 最高に贅沢な一品である。 

 あまりに美味でカルブはついついガツガツ行ってしまったが、ツタンカーメンはあくまで上品に平らげる。

 触手が一気に倍増し、大半の蚊が拠るところを得る。

 残っているのは蚊柱の中でもドン臭い者達。

 だからって冷たくあしらったりはしない。

 神殿へのお供え物は、まだまだたくさんあるのだから。


 次はフルーツ。

「行きます! イチジクにスイカにナツメヤシ!」

「来い! イチジクにスイカにナツメヤシ!」

 いずれもエジプトでは古くから食されている。

 飛び回る蚊は、もうほぼ居ない。


 そしてデザート。

 これも二人とも大好物。

「行きます! ハチミツをたっぷり使った甘い焼き菓子!」

「来い! ハチミツをたっぷり使った甘い焼き菓子!」

 べとべとになった指をペロリ。

 あと少し。


 仕上げの飲み物。

「行きます! ザクロのジュース!」

「来い! ザクロのジュース!」

 ついに最後の一匹が、アテン神が差し伸べた触手の先端に留まった。


 お供え物を食べる順番は、フランス料理のフルコースを参考にしました。

 調べてみるとこの順番には、食欲を刺激する、消化を良くするなど、一つ一つにおいしく食べるための工夫が込められているようです。

 昔のフランスでは料理は大皿で一気にドーンと出していて、一皿ずつ順番に出すのはもともとはロシアのやり方(冷めないうちに食べるため)だったそうです。

 エジプトを書いてたらロシアに飛んじゃいましたっ♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ