「どうすれば助けられるんだ?」
「蚊柱のみんなはねー、今は日当たりのいいところで太陽への礼拝をしているよー。
この時間に太陽の船に乗っているのはケペリ君だねー」
暁のフンコロガシの神である。
「アテン神が行ってあげればいいのに」
ツタンカーメンがふわんと浮遊してベッドに戻る。
「ムダだよォ。
蚊柱のみんなが求めているのは“自分の中の理想のアテン神”で、ボクであってもボクじゃないんだもん。
スメンカーラー君と同じで、ボクが目の前に居ても見えないんだ」
「神を信じてない人と信じすぎてる人が同じだっての?」
「うん」
「え? でも蚊柱には女神メレトセゲルが見えてましたよ? 攻撃していましたし」
カルブもベッドに這い上がる。
「あの子のことは神とかとは別に、敵って認識だからね。
蚊柱のみんな、そういうことにばっか敏感なんだ」
そして、ため息。
「ボクの教義と完全にズレちゃってる。
だからますますボクが見えなくなって、それでイライラして他の人のせいにしたくなって、他の教義の人を攻撃して、どんどんボクから遠ざかるんだ。
ボクに敵なんか居ないのに」
「……あいつら、ニンニクが効かなかったんですよね。
それに、日光を浴びても平気なんですね」
「あの子達、別に悪霊ってわけじゃないからね。
今はまだ。
このままにしておいたら本当に悪霊になっちゃいそうだけどね」
「それじゃあ、どうすれば……」
カルブは、どうすればやっつけられるのかと訊こうとした。
「どうすれば助けられるんだ?」
ツタンカーメンの言葉に舌を巻く。
ファラオがそんなお人好しでいいのかどうかは知らないけれど、つーたんはこれでいいのだ。
アテン神が言うには、蚊柱が動き出すのは日暮れから。
それまでに神々でいろいろ用意をしておくとして、ツタンカーメンとカルブには、特にやることはないそうだ。
「つまりそれまでヒマってことだな? よし、カルブ! 風呂行こうぜ、風呂! おれが洗ってやる!」
「何で!?」
「遠慮すんな! そーだ、アテン神体操ってのを教えてやる!」
「何ですかそれ!?」
その日の午前中、二人は風呂とは名ばかりの水遊びをしてすごした。
昼にはカルブの手作りのパンケーキを物質と霊体で分け合って食べて、午後もまた水遊びをして、疲れたら木陰でセネトというボードゲームを広げ、それからきちんとお風呂に入って、仕上げにアテン神体操をして二人でゲラゲラと笑い合った。
カルブはツタンカーメンの葬式以来、ずっと仕事を休んでいただけでなく、こんな風に遊ぶなんてこともすっかり忘れていたというのに、ツタンカーメンに心配されて、ついつい強がりを言ってしまった。
ツタンカーメンはカルブに、邪神セトや大蛇アポピスとの戦いを誇らしげに語って聞かせたが、父とのことだけは言えなかった。
作中のパンケーキは、小麦の種類等、現代の物とは多少異なっています。




