「ずっと」
「ずっとついてきてたのかよ?」
「だって神様ってそういうものだし」
アテン神は無数の触手を照れくさそうにモジモジさせた。
「おれがここに来たのって、偶然じゃないよね?」
「着地の時の風向きをちょっといじった以外は偶然だよ。
ちょうどいい機会だったから。
つーたんならスメンカーラー君を助けられるんじゃないかって思ってさ」
「……無茶だよ」
「うん。やっぱりアクエンアテン君じゃないとダメみたいだね」
「いや、アテン神が助けてよ。慈愛の神様なんでしょ?」
「ボクが一番ムリだよ。
スメンカーラー君はボクの声に、無意識に耳をふさいでしまっているからね。
ボクが目の前に浮いていたって、あの人にはボクの姿は見えないんだ」
「スメさんが生きてる間に出てきてくれれば良かったのに」
「ボクはいつでも空に居たよ。太陽として。
遠回しに話しかけたこともあったさ。優しいそよ風とか木漏れ日を通じてね。
だけど相手にしてくれなかった」
「もっと神様っぽく出てきてよ」
「それは冥界に来てからのお楽しみだよ」
ツタンカーメンが顔をしかめる。
「ああ、つーたん、キミも今にわかるさ。アアルの野に着いたら、ね」
「じゃあさ……先王様を助けてよ」
「それはもっと難しいよ。
アクエンアテン君は自分がボクだって思い込んじゃっているんだもん。
ボクをニセモノ扱いして、ボクのことを救ってやるとまで言ってくるんだけど、それじゃどうしようもないんだよね。
もちろん他の神様が行ってもムダ。
他の神様を崇めてきたご先祖様が行ってもムダ。
だからね、つーたん……
アクエンアテン君を救えるのは、キミだけなんだ」
星々が太陽神と少年王を静かに見守っている。
夜明けまではまだ時間がある。
「驚かないね。
やっぱりわかってたんだ。
祈ってごらん。
ああ、ダメだ。キミはイイ子になろうとしている。
本当は、アクエンアテン君を許せないんだね?」
「……父親だってことを隠していたから」
「うん。そうだね」
夜風に砂がさらさらと鳴る。
「ま、そっちはあとでいいよね!
それよりもまず、キミがアアルの野に入れるように、キミの心臓をあの蚊柱みたいな霊から取り戻さないと!」
アテン神は努めて明るく声を上げた。
「行こう、つーたん! テーベへ! キミのお墓がある王家の谷へ!!」




