「神は一人か大勢か」
「今、思うと、不思議よね。
どうして皆、どうしてアタシまで、あなたがアテン神の子供だなんて話を真に受けたのかしら。
あなたはあんなにあっさりとアメン神を選んだのに」
「あっさりとじゃありませんよ。それにアテン神を嫌いになったわけでもありません」
「つーたんは今でも神様なんてものの存在を信じているの?」
「信じてますよ。アテン神もアメン神も、他の神々も」
「どうして?」
「それは……」
実物に直接会ったから。
(でもスメさんがしたいのはそんな話じゃないよな)
子供の頃、会ったこともない神を、微塵も疑わなかったのは何故?
「好きだからです」
アケトアテンの廃墟の空で、無数の星が輝いていた。
「先王から初めて教えられた神は、一人ぼっちでした。
先王が死んで、神官達が、禁じられていた他の神々の話を語りだして……
神様に友達が居るかもしれないって知って、おれ、すごく嬉しかった。
たくさんの神様が仲良く暮らしているところを想像するのはとても楽しかった。
だけど先王の教えも捨てがたかった。
先王が唱えた、唯一絶対の慈愛の神。
神様は一人か大勢か、どちらを考えるのもワクワクした」
星がまたたく。
星が流れる。
後の時代のオリオン座、今はオシリス座と呼ばれる星々が昇る。
「同じ時にスメさんは、神の数がイチかゼロかで悩んでいて……
スメさんはとても苦しそうだった。
おれはあなたみたいになりたくなかった。
みんなをあなたのようにしてはいけないって思った」
星は巡る。
時代は変わる。
いつか信仰も別のものになる。
それでもより良い未来へ繋ぐ。
「いい王様になったわね」
「もう終わっちゃいました」
「またそんな冗談を」
ツタンカーメンが幽霊だと、スメンカーラーは信じない。
「おれが無限を選んだことが、あなたにゼロを突きつけてしまいました」
「アタシが自分でゼロを選んだのよ」
また会いに来ると約束をして二人は別れた。
ハエの羽音を聞きつけて、ツタンカーメンは町外れでスメンカーラーの亡骸を見つけた。
(……本当に、おれのほうが先に死んでたんだ……)
天を仰ぐ。
瓦礫を見渡す。
「出て来なよ。そこに居るんだろ? アテン神!」
かろうじて残っていた壁の陰から、異形の神がひょこっと現れた。
挿し絵はふとした気の迷いで描いたアテン神。
リボンと口紅は無視してください。




