「ツタンカ――アテン」
「ラム筋肉よ、名は何と申すか?」
「おれは……」
アテン神体操で激しく動いて、防護服のヘルメットがグラグラ揺れて、ツタンカーメンはこれが取り外せるものなのだとようやく気づいた。
ヘルメットを脱ぎ、ずきんを直し、父の瞳をまっすぐ見つめる。
ツタンカアメンの名は、アクエンアテンの死後に、側近の提案で変更したもの。
「ツタンカ――アテン」
父につけられた名前は、こっち。
名前の意味は、アテン神の生き写し。
「それはまた、ずいぶんと大それた名であるな」
自分でつけたのに、父は覚えていなかった。
(……アポピスの胃液のせいだな……悪霊達みたいに、胃液で記憶を溶かされてしまったんだ)
わかっている。
けど、悲しい。
「父親の名前は……アクエンアテンっ!」
「ほう! そちらは良い名前だ!」
「あんたのことだよっ!」
「うむ! アテン神のための者とは、私への篤き信仰を示す、実に良い名前だ!」
(それが何で自分でアテン神を名乗っているんだ!?)
息子は奥歯を噛みしめた。
悪霊達は、本人にとって重要な記憶は残っていた。
(自分がアクエンアテンだって事実よりも、アテン神だっていう思い込みのほうが大事なのか……?)
息子と過ごした記憶よりも……?
防護服のせいで蒸し暑くって息が苦しい。
けれどこれ以上は脱ぎ方がわからない。
「じゃあ――――――って人は?」
ツタンカーメンは母親の名前を告げた。
「それも良い名だ!」
「そうじゃなくて! あんたが愛した人の名前だ! 愛したはずの人の名前だ!!」
「うむ! 愛しておるぞ!」
「!!」
「太陽神アテンは全ての人類を愛しておる!」
「そうじゃっ……なくてっ……」
うつむいた視線の先で、二人の股間が発光して、悪霊を遠ざけ続けていた。




