「アメンテト」
ソカル神がファジュル達をアメンテトまで送っていく。
ファジュルの腕の中で、小鳥のガサクはまだ目を覚まさなくて、ツタンカーメンはさよならを言えなかった。
ホルス神への変身を解き、杖をついて歩き出したツタンカーメンに、プタハ神が歩調を合わせる。
目指すのは、ファジュル達とは逆の方向。
(ガサクやファジュルも、アアルの野に連れて行きたかったな……)
プタハ神の前では言いにくいけれど、一日に一時間しか陽の当たらないアメンテトは、ツタンカーメンには陰気な場所に思えた。
アメンテトが闇に閉ざされる二十三時間、住人は死者としてひたすら眠り続ける。
「ねえ、プタハ神。おれ、アメンテトに遊びに行ってもいいのかな?」
「構いませんけれど、その前に仕事で来てもらうことになるはずですよ。君はファラオとして、太陽の船からパンを配る役目なのですから」
「あ!」
「アアルの野は、記憶の野。永遠の楽園とは、生前に幸せだった人が、その幸せを死後の世界でも引き継ぐ場所です。
例えばサルワ君は生前は貴族だったようですから、アアルの野でも相応の暮らしになるでしょうね。商人もしていたようなので、きっとさまざまな珍しい品物をアアルの野に持ち込んで、アアルの野をより豊かにしてくれるでしょう。ファラオですらまだ知らないようなご馳走に出会えるかもしれません」
「…………」
ご馳走と聞いてもファラオの心は弾まなかった。
貧しいガサクやファジュルには、その道は最初からなかったのだと思うと、どうしても……
「確かにアメンテトの暮らしは、毎日、パンを食べて棺で寝るだけの退屈なものです。
アアルの野のように、百年前のリュート弾きと千年前の神殿歌手の協演が聴けたりはしません。
それでもアメンテトの住人は、自らの存在が永遠であるように、消えてなくなったりしないように望み、祈り、我々神々はそれを叶える。
ガサク君とファジュル君は、起きていられる一時間に、生前のように歌うでしょう。
一日に一時間と聞くと短く感じられるかもしれませんが、その一時間は永遠にくり返されるのです。
そしてね、ツタンカーメン君。生けるファラオが生ける人々を守るように、死したファラオは死した人々の暮らしを守っていくのですよ」
それはツタンカーメンが先王に後継者として指名された時から決まっていたこと。
「アアルの野に着いたら、ツタンカーメン君は歴代のファラオの中に加わって、アアルの野だけでなく冥界全体を守るために悪霊と戦ったりアポピスと戦ったり邪神セトと戦ったりし、それらの当番ではない日には、トート神が治めるきらびやかな宮殿で書類を書いて書類を書いて書類を書いてすごすのです」
「なんかアメンテトのほうがいいような気がしてきた。食べて寝るだけって」
「ファラオがそれを言っては駄目です」
ファンアートいただきました!
オシリス神とメジェド様です!
ありがとうございました!!




